第6話 渦中の少女
慎重に、けれど急いで会場から出て、通路へ。
安全を確保しつつ、改めて尋ねるのは現場がこんな悲惨な事になっている原因だった。
「とりあえず、聞くけど。何があったの?」
「えっとねぇ、爆発があったよ」
それは見れば分かる。
だが、先程の質問では大雑把過ぎたとクロードは反省。
イリアの脳みそで理解できる形で説明してやらなければならなかった。
「僕が聞きたいのはどうしてそんな爆発がって事?」
「あのね、すっごく変な事言っちゃうけど、驚かないでね。女の子が空から降って来たの」
「は?」
だが、そこで告げられたのはそんな正気を疑う様な発言だった。
相手の頭と、ついでに相手の目が節穴かどうかを疑いながら、見慣れた顔を見つめ続ける。
「えっと、それって?」
「そのままだよ。会場の屋根がばーんって壊れちゃったかと思うと、そこから女の子が落ちて来て」
「落ちて来て?」
「それを追いかけて来たロボットが銃で撃ったり、爆弾みたいなの投げてドーンって」
「ロボットってどんな?」
「よく覚えてないなぁ。一瞬の事だったし。角ばってたのくらいしか」
ロボットなら大抵が角ばってるだろう、という事は言わないでおいた。
まったく要領を得ない説明だったが、有益な情報もあった事は確か。
「テロリストとかじゃないって事か……」
最近、どこかの人工海の周辺に反政府組織がうろついているかもしれないという、話を聞いた事もあるのだが、その話とは関係がなさそうだ。
「たぶん後でやってきた治安部隊の人なんかに事情を聞かれるだろうから、その時までにちゃんと思い出しておきなよ」
「はーい」
まあ、イリアの記憶力には大して期待してないが。
他にも目撃者はたくさんいただろうから、彼女一人が詳細を忘却してしまったとしても大丈夫だろう。
だが、通路からエントランスへ出て建物の外に出た時、まさかイリアの話に出て来た少女と出くわすとはさすがに思わなかった。
「なんだ、雰囲気が……」
会場前は、奇妙な静けさに包まれていた。
けが人や野次馬たちは、思わず我を忘れてしまような事が起きていたらしい。
その原因は空。
周囲にいた人々が、一様に視線を上へ向けているのに気が付いて。それにならう。
イリアが空を見上げて、ある一点を指し示した。
「クロード! 見て、あそこ!」
それにクロードは「言われなくても」と返す余裕はない。
あるのは、暗闇に包まれた空。
昼間は、深い青が支配し得いるだろう空は、いまはまばらな海光虫の輝きに彩られていて……。
そしてなぜか、そこに一人の少女が浮かんでいた。
「女の子……?」
見間違いなどではない。
はっきりと、人間の少女だった。
その少女は、何かを警戒する様に周囲をキョロキョロと見まわした後、気を失って力尽きたかのように落下してきた。
「クロード!」
何の因果なのか、その落下予想地点にはクロードが近い。
イリアに言われるまでもなく、慌てて落下地点へと滑り込むと、間一髪。
夜闇から墜落してきた少女をキャッチした。
「ねぇ、クロード。その子って……」
イリアが心配そうに近寄ってきて、こちらの腕の中にいる少女へと視線を向ける。
怪我は無さそうだが、意識がないのか、瞼を閉じたまま微動だにしない。
「普通の子じゃ、ないよね」
「だろうね……」
考えるまでもない事だが、普通の人間は、空を飛んだりしない。
遠くから、治安部隊の人間がかけつけてくる。これだけの事件があったというのにいやに到着が遅い。
わずかな違和感を感じつつも、一連の手がかりを求めて腕の中でぐったりとした少女を見つめ続ける。
珍しい紫紺の髪に、それよりも濃い紫の瞳。そしてよくできた人形の様に整った容姿と顔。
年齢は十代を少し過ぎたばかりのようで……、白磁の様に滑らかな肌は何者かに痛めつけられたかの様に多くの傷が刻まれている。
クロード達には、その少女が悪人の様にはどうしても見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます