第389話 水鉄砲①

◆水鉄砲


「速水さんは、あれからも・・そんなことをされたのか!」

 思わず声が大きくなるとの同時に、速水さんの胸に条件反射のように目が言った。見るな、速水さんに失礼だ!

「私もされるがままではないわ」と速水さんは言った。その表情は暗い。

 速水さんはキリヤマがいる時間を避けて生活していたが、

 その日、間の悪いことに、家にはキリヤマしかいなかった。

 時刻は夕方の4時。母親は外出していた。ヤヨイも不在だった。

 そうとは知らない速水さんは、キリヤマはパチンコに出ているだろうと思って、帰宅した。油断していたのだ。

 家に入ると、暗い廊下にキリヤマの姿を見た。速水さんは慌てて外に出ようとしたが、キリヤマは速水さんを素早く掴まえた。

 そして、「沙織、ようやく、二人きりになれたなぁ。仲良くしようじゃないか」と言った。

 やはり、昼間は家に帰って来ていけなかったのだ。激しい後悔が襲った。

 これが速水さんが遅くまで部室に残っている理由なのだ。


 速水さんはキリヤマの腕を振り解き、二階に上がろうとした。だが、キリヤマは人の動きを封じることに長けている。

 キリヤマは速水さんを羽交い絞めにすると、勝ち誇ったようにこう言った。

「透明になる化け物でも、こうして掴んでしまえば、同じ人間だな」

 その通りだ。

 中学時代、初めて速水さんに出会った時のことを僕は忘れない。

 速水さんはキリヤマに手錠で繋がれて歩いていた。透明になっても逃げられなくするためだ。


 だが、その時はキリヤマは手錠を持っていなかった。

 速水さんは思った。

 ・・キリヤマから離れて、体を透明化すれば何とか逃げることができる。

 自主透明化できる速水さんは、キリヤマの腕の中で体を透明化させた。

 対象を見失うと捕まえていることが難しいのか、速水さんは、キリヤマの拘束から容易に逃げ出すことが出来た。

「おいっ、沙織、どこへ行きやがった!」キリヤマは叫んだ。

キリヤマは、叫びながら速水さんのことを「この透明の化け物め!」と罵った。

「速水さん・・透明になることで、キリヤマから逃げることが出来たのか?」と僕が言った。 

 すると速水さんは「取りあえずはね」と答えた。

 速水さんは家の中庭に逃げた。

「丁度、その時、ヤヨイ義姉さんが帰ってきたのよ」と速水さんは言った。

 その続きが気になって仕方ない。悪い予感がする。ヤヨイという女がどんな行動をとるのか?

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