第366話 ヤヨイ②
すると池永先生は、僕たちの顔を見比べながら、
「・・それで、お二人はおつき合いをしているの?」と訊いた。
僕がまだコーヒーを飲んでいたら、思いっ切り吹き出していたことだろう。
「ちっ、違いますよ」
僕は「誤解です」と言わんばかりに否定した。
池永先生は、隣でクスクスと笑う水沢さんを見て、「ははあん」と独り合点をして、
「つまり、まだお付き合いをしていないということね」と微笑み、「これからなのねえ」と嬉しそうに言った。
更に否定しようとしていると、
先生は、
「私、鈴木くんは加藤ちゃんとつき合っているのかと思っていたわよ」
先生とは、加藤と川辺を散歩している時に遭遇した。
加藤の話が出ると、水沢さんは「えっ、そうなの、ゆかりと?」と僕に言った。
これは、まずい・・
「池永先生!」
僕は声を大にして呼びかけた。
「は、はい」とかしこまって聞く姿勢を見せた先生に僕はこう言った。
「先生は、男子が、女の子と一緒にいたら、その子とつき合っていることになるんですか?」
僕が怒り口調で言ったので、先生は「うーん」と考え、
「だって・・」と小さく言った。
「だって、何ですか?」
僕は先生を促した。
すると池永先生は恥じらいの表情を浮かべ、こう言った。
「だって、私、そういうの、あまり分からないのよ」
つまり、誰と誰がつき合っているか、見分ける唯一の方法は、「一緒にいる」そのことだけだということか。
すると、それまでクスクス笑いをしていた水沢さんが、堪え切れないように笑い出した。
「ちょっと、水沢さん。笑い過ぎよ」先生は恥ずかしそうに言った。
こんな先生は中々いるものではないな、と思うと僕もおかしくなった。
その時だ。
水沢さんが肩をブルッと震わせたのと同時に、池永先生まで、いつもの明るい顔を曇らせた。
その原因は・・
「センセ」
池永先生に向かって放たれた声の主を見ると、
そこには、見覚えのあるミリタリージャケットとにスリムなジーンズ。髪を後ろで束ねた若い女がいた。
それは、キリヤマの娘、ヤヨイだった。
つまり、速水沙織の義理の姉だ。
「先ほどもお会いしましたわね、センセ」
池永先生のことを「センセ」と呼んだ。
ワザとらしい口調だ。丁寧語と下品な言葉が混ざった話し方だ。
池永先生は、ヤヨイに会ったことがあると言っていた。
先生が応えないでいると、
「お名前は、確か・・」ヤヨイは「うーん」と名前を思い出すように首を傾げ、
「池永先生でしたわよねえ。おっぱいが大きいのでよく憶えていますわ」と言った。
おっぱいが大きいのは余計だ。
「先ほどはご挨拶なしでしたのね。父にその大きなお胸を揉まれたようですけど」
そう言われた池永先生の顔には不快の文字しかなかった。
「私に何の用なの?」と言いたげな表情だ。
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