第95話 「ざ・ま・あ!」 無能な魔装訓練生だけど、エリートたちに大逆襲マウントかましてやった件についてっ!

「《ゲームマスター》から《ディレクター》へ。爆発音は用意できたか? あぁ、出力音量は最大。なんなら音響機材ぶっ壊しても構わねぇ」


 ピンマイクに向かって努めて静かに指示を出す。


『パニィちゃんから市街展開中の三組皆に伝えるよ。爆音とともに、一度しか言わないからよく聞いて?』


 隣で神妙な顔つきしたバニーガールと目を合わせる。

 頷き合って、俺は合図を出した。


「本騒動の黒幕。おそらく《秘密結……》」


「5・4・3……発破」


 ドゴォォォォォォンッ!!!! という爆発音は、このイベントを始めるとき、避難員の注目を集めたものよりも、さらにデカい。


『『『『『きゃああああああああああああああああああ!』』』』』


『《……の見る夢》』


 なら避難員が、悲鳴上げるのは当然。


 さてさてさてぇ? 今回の事件、秘密結社が裏にいるんだって。

 おいおい、《魔装戦隊マッソーシンカー》の相手としちゃ申し分ないじゃねぇか。


〘ご来場の皆様ぁぁぁぁ生きてますかぁぁぁぁっ! 命があれば何でもできる。行くぞぉぉぉっ! 1・2・3……マッソーマッソー!〙


 爆音は、効果音だ。

 一度大きく驚かせることで、皆様の動きを止めて、一拍の間を作りたかった。


 後ろでは何やら《パニィちゃん》が3組連中に話してる。

 まぁ、俺のインカムにもその内容は聞こえるんだけど、あまり気にしないことにした。


 編入する前の2年間の事件で、陰で暗躍した集団がいたそうだ。

 で、三組が命がけで戦って、何とか秘密結社の望む通りにさせなかったんだと。


 じゃあアイツらの喧嘩じゃん? 俺の出る幕ではありませんね。

 そんな、誰が味方で誰が敵かもわからないような組織。いまさら俺の敵でしたなんて言われても収集が付かない。


 そんなものは皆に任せましょう。 


(それよりも俺は、こっちだ)


〘ご安心くださいっ! 我ら魔装学院は、こんなこともあろうかと前もって特別ゲストを用意しておりました! そう。レッド・ブルー・イエロー・ピンク・ブラックの特戦隊があって、シルバーやゴールド位置づけのアレ・・です!」


 爆音で恐縮してしまった避難員の皆様に、また努めて明るい声を掛けてやった。

 希望から絶望への真っ逆さま。一番初めより、空気を盛り立てるのは難しそうだが、そんなことは言ってられない。


〘校内にホールが現れました。しかし市街の討伐の為、外に戦力を傾け過ぎてしまったのが現状!〙


 嘘を信じさせるには、そこに少量の真実を織り交ざると良いと聞いたことがある。

 いまがまさにその状態。


 口走ったのは、あたかも避難員に、「校内には弱い奴しかいませんよ」と言っているに等しい。

 ざわつくのは必然。


(それでもいい。ぬか喜びでも何でもいい。そのためには、何だって使ってやる)


〘皆さんはご存じでしょうか? 《天下一魔闘会》上位回戦に上がる猛者を意識し、戦術や力を分析しようと、他学院の猛者もが、この学院祭に集まっていることを!〙


 新興宗教の教祖様宜しくだ。

 両腕を開き、天井に向かって希望に満ちた笑顔(包帯巻いたままだが)で声高らかに。


「《ディレクター》。大講堂カメラ……うっし、やってやるぜコラ。ククク、笑ってんじゃねぇよ。ま、泡の一つも吹かせてやろうじゃねぇ」


 小さく、ぼそりとピンマイクに声をかける。

 そして天を仰いだ状態から、避難員たちを見下ろし、先ほどクラスの奴らを紹介したように後方スクリーンへ振り返る。


〘《ディレクター》さん。まずは3カメどうぞ!〙


 そして皆さんに聞こえるように、手持ちマイクでそれを告げるときは大発声。


 大講堂が、ざわめいた。

 スクリーンに映った、困惑し驚いている顔・・・・・・・・・に対し、そのざわめきは少しずつ大きくなっていった。


『ねぇ、あの制服。魔装士官訓練生じゃない?』

『制服が違う。他の学院生さんか?』

『さっきから気になっていたんだけど。どうしてこの状況で待機しているわけ? 他の訓練生たちは皆戦っているのに』


 俺の合図で、大講堂内のカメラが、とある人物二人・・・・・・・を撮影。スクリーンに動画表示させた・・・・・・・・・・・・・


〘はぁい! 続きまして4カメ送れっ♪〙


 次の合図では、耳を塞ぎたくなるほどの下衆話を垂れ流していた・・・・・・・・・・・何処かの学院のいけすかねぇイケメン訓・・・・・・・・・・・・・・・・・・練生グループ・・・・・・(悔しいがマジでアイドルグループ並みのイケメン)映像を、スクリーンに出力させた。


〘次行きましょ。どんどん♪ あ、ドンドン♪ あ、どんどんどんどんどん♡!?〙

 

 そうして、ドンドンカメラでキャプチャーする。

 次々とスクリーンに、この状況にあって動こうとしなかった他校訓練生たちのアホ面(男女関係なく)をさらしまくった。


『ふふっ。山本君のいたずらっ子♪』

「さてぇ? 性格が悪いのか、こうまでしても心が痛まないのはなぜなのか? それで、状況は?」

『うん。鉄君たちには秘密結社の影について説明した。学外周辺、市内の霊的力場を捜索してもらって、この結界の術者を探してもらうことにしたよ』

「これほどデカい学院を結界で覆う。霊的力場の力を借りなきゃできないと判断の上か。流石だね《パニィちゃん》は」


 ある程度、使命を放棄した不届き者達をスクリーンでさらし者にしてやって、それを見た一般人たちからの疑念や怒りをそいつらに集めてやったところ。

 刀坂たちに話を終えた《パニィちゃん》が笑いかけてきた。


「心配な点は?」

『もし、術者がこの学院にいた場合のこと』

「霊的力場の心当たりは?」

『一応小さなほこらはあるけど。たぶんもし学院にいても、そんな分かりやすいところにはいない』

「いないって……」

『相手があの秘密結社なら、一人でも術式を、霊的力場無しで可能にさせる凄腕のメンバーが何人もいるから……」

「あぁ、いいや。やっぱなしで。悪い話聞いちゃうと動けなくなりそうだから』


 ひとしきり大雑把に状況は把握した。


 詳しい話は聞くつもりはなかった。

 秘密結社だのなんだのってのは、あくまで1、2年時の刀坂たちだけの因縁なんだ。


「そーだ《パニィちゃん》」

『何?』

「さっき人為的って言ったの。結界は悪意を持った誰かが急遽プランBで張ったとして、じゃあ何もなければプランAで終わるはずだった。ちょっと考えられないんだが、プランAも人為的に始められるものなのか?」

『一部の妖魔はね、異世界転召脅威が多発する昨今をチャンスと考えたの。古に退魔師によって抑え込まれた彼らだから、ホールが開けば魔素が流入する。妖魔たちの力になる』

「多発するようになってから、ホールが開きやすくなっている傾向にあるってのもそうなんだろうが、マギステル・シンドロームで精神崩壊するリスクもあるって」

『構わないんだよ。それで暴れ出した妖魔たちが狙うのは、人間なんだから。秘密結社の目的は、現代社会の転覆。退魔師ひいては人間と、妖魔のパワーバランスを逆転させること。だから、そういった知識は……』

「ホールを開くすべすら奴さんたちは持っているのね(汗) 秘密結社ってのは、《人ならざる者》の集団ってこってか?」


 これはいよいよ厄介な連中である。


 だったらますます、如才なく無難に何事もなく、周りの奴らと楽しく宜しく3年生を終えたい平平凡凡な俺の人生物語には必要はないし、まったくもって関係はありませんね。


 それらすべては、奴らに任せるさ。


「さて、それじゃお話はここまでかな」

『あ、それは……』


 ふと沸き立った俺の疑問も、これにて解消。

 さきほど彼女のオッパイを揉んでから、ここに至るまでに新たに練った作戦に、俺たち二人で進まねばならない。


「……準備はいいか? 生徒会長・・・・?」

『う……うぅ』


 あえて、生徒会長と呼んだのには理由があった。


 改めて作り上げたこの空気を一層確かなものにする。

 そのためには可愛くてオッパイの大きくて目が引くから扮してもらった《パニィちゃん》ではなく、この学院訓練生の代表、生徒会長としてこれから口上を述べ挙げてもらう為だった。


 だが、俺に反して、彼女は不安そうな顔を見せていた。

 呼びかけに対して、目を、そらしたんだ。


「不安……か?」

『胸、揉まれちゃったけど。私、さっき確かに心が折れちゃったんだ』


 その言葉に思い出す。

 オロオロとして心細げな表情で怯えていた彼女は、確かにそのとき抱きしめてしまいたいと思わせる(だが、抱きしめるのは我慢してオッパイを揉んだ)ほどの弱弱しさがあった。


 司令官として、一度折れてしまった自分を許せないと共に、以降も指揮官を務めてよいのか迷いがあるのかもしれない。


「よく、ここまで数時間持ったよなぁ」

『え?』


 でも、それでも俺たちにとって、彼女が指揮官であることが重要な気がした。


「確かに君は折れちゃった。だから一瞬だけ領分を俺は侵しちゃったんだ」

『や、やまも……』

「指揮官の大変さを全部分かった……なんて軽々しく言うつもりないけど。ちょっとでも指揮官になって、こんなちっこくて可愛い会長・・が、そんなデカくてクソ重たいものを受け止め、飲み込んできたってのを思い知ったよ」

『山本……君?』

「ずっとこんなポジションで、君は頑張ってきたんだなぁってさ。情けないと思わない? 図体ばかりデカい癖して俺には一分も持たなかった」

『あ、貴方は……』


 何が俺の役割なのか。この戦場に限ってはハッキリしていた。


 避難員の恐れをポジティブなエネルギーに変えてやること。そしてそれを訓練生たちに届けることによって士気向上につなげてやること。

 ……だけじゃない。


 すべてだ。俺以外のすべての存在の、モチベーションを高め、心を奮い立たせてもらうこと。


「だから会長は本当に……凄い」

『ッツ!』


 そしてそれは……


「そこに立てる心の強さ。的確な判断を下せる冷静さ。頭の良さ。なにより皆へ気遣い。誰に務まるポジションでもないよ。だから皆の信頼が一手に集まり、『君の下でなら』って戦えるんだ。だから俺は、君をこの場に引っ張った」

『駄目……だよ……それ以上……』

『俺の目論見が上手く行ったとき、君ならその状況をうまく使ってくれる。波に乗ってくれると信じていた。そして、人望のある君がその波に乗ることさえできれば、君の勢いもまた、他の訓練生に伝染する』

『あ、ああ……あ……』


 俺たち魔装士官学院三縞校の生徒会長であっても例外にないんだ。


『どうして、今日になってそんな、怒涛のように……畳みかけてきて……』

「俺は知っている。君にならできる。俺たち兵を束ねろ。使え。君は、第三魔装士官学院三縞校俺たちの将だろうが!」

『……ズルい……よぅ……』


 何か彼女が言ったようだったが、俯いて小刻みに体を震わせていたため聞こえなかった。

 本当はもっととりなす必要があるのだろうが、他校訓練生に対して疑念を持ち始めた避難員たちをいつまでも放置するわけには行かない。


「《ディレクター》。効果音は《拍手》と《歓声》。そして大音量での《口笛》。スタンバイ……レディ、セットォ」


 ここにはいない腐れ縁に告げて、息を大きく吸う。吐き出す。

 一歩、大きく避難員たちにむかって踏み出した。


『不思議な人。山本君に言われると、もう一度自分にもできる気が本当にしてきちゃう。それに、どんなに絶望的な状況でも諦めない。鉄君に・・・初めて会ったときみたい・・・・・・・・・・・


 集中を高めた。


(良く聞こえないことは後で聞けばいい。いまはとにかくこちらに……)


〘皆さまにお伝え申し上げますっ!〙


 不届き者達に視線を集める避難員たちは、大講堂に響き渡った俺の声に反応し、視線を集めた。


〘お感じになった誤解につきまして、まずは誠に申し訳なく!〙


 胸をそって右腕を高々と上げる。

 声とともに腕を下ろし、斜め袈裟斬りの要領で、左腰あたりまでもっていきながら腰を折り、大きくお辞儀した。


〘戦力を……温存しておりました〙


 マイクに向かって、少し小さめに口にする。


 聞き漏らすまいとしたのか、全員の意識がさらに集まっているのを感じた。


 間髪入れずにバッと顔を上げて体を起こした。


〘戦力を温存しておりましたぁぁぁぁぁぁ!〙


 体を起こす反動で、今度は天に向かって咆哮を挙げた。

 緩急をつけた動きも、人の目を引く。

 ならいま張り上げた声も、届いているはずだった。


〘実は、このスクリーンに映る彼らこそ、本作戦の待機戦力っ! そして皆様の絶体絶命の危機を、命を賭して覆す、最終兵器リーサルウェポンッ!〙


 そ・こ・で、ビシィっと指を……京都校二人を中心に向けたやった。


 あぁ、見てる見てる。


 京都校の二人も。そのほかの学院生も。

 目じりをピクピクさせ、口を半開きにさせた表情で、俺を見ていた。


〘皆様、全身全霊による歓迎をっ!〙

『パニィから《ディレクター》君。いっくよ~♪』


(会長が乗ってきた! 重畳! だったら……!)


 終わらない。


 こんなもんじゃ、終わらせない・・・・・・


〘彼らこそ、この状況を打開し、終焉へと導く魔装訓練士官の精鋭たちだぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!〙


 心からの感情を、肺一杯にため込んだ息とともに、盛大に吐き出してやる。


 見計らってとどろいたのは、《ディレクター》が再生した《拍手》と《歓声》。そして大音量での《口笛》。


 いつの間にかスクリーンに表示させるような手配をしたのか。

 スクリーンに表示される彼らの顔の下から、クラッカーの絵が現れ、パカンッ! と乾いた音とともに、中身が顔に降り注ぐ演出まで行われた。


 だから……


『『『『『『うおぉおぉぉおおぉおぉぉおおぉおぉぉおおぉおぉぉおお』』』』』』


 避難員たちが、乗った。


 少しでも救いがあるならすがりたい。そんな感情が、再び爆発した。


〘いやぁ、流石は退魔師の末裔ともあろう方々ですなぁ。皆さんの期待を一身に背負って。力ある方は大人気でごぜーますねぇ!〙


(あぁ……いい)


〘まさかここまで期待されて動かなかったら、それはもう退魔師どころか、魔装士官訓練生の風上にも置けないどころかぁ……恥ずかしくて地元にも帰れないんじゃないでしょうかぁ?〙


(いいぞお前たち。一体なんて、俺にとって幸せな表情を浮かべてやがる)


〘きっと、かつてはヘコヘコ頭を下げてきた奴から、後ろ指さされて笑われるんだろうなぁ。『アイツらずっと偉そうに振舞ってたけど。三縞市じゃビビって動けなかったって。だっせぇ!』なぁんて〙


(いいよぉ俺専用脳内◇◇。頂戴? もっとその表情頂戴?)


〘あっはは~! いっそのこと開き直っちゃおうか! 皆が戦えない中、戦う力がなくってこんなところで震えている私は、確かにゴミかもしれません。ですが、だったら……〙


 クク……ククク……


〘《最強》が出し惜しみせず戦ってくれるなか、届きもしない格下が、プライド大事で動かないってのはゴミでしょうか? いやぁ。ゴミが営みの結果生まれたものなら、そういう奴らはそもそも、存在する価値すら……といったところでしょうか?〙


 オイ、最高に笑える。


〘ギャッハハハハハハハ! ケーケケケケケ!〙

『や、山本君。怖くて悪い顔してるよ?』


 目をかっと開き、顔も体も震わせながら、屈辱で顔を真っ赤に染めてこっちを見る表情。


 (いーやあえて言おう《クズどすえ》。『こっちみんな』と)


 そのとき、避難員に対して俺よりも前に出てきたのが《生徒会長》だった。


「……やれるな。生徒会長殿?」

「うん♪ 私の隣に……山本君がいてくれてよかった・・・・・・・・・・・・・


 俺の方を振り返ったから、頷いて見せた。それに応えた彼女は、再び集団に顔を向ける。

 手持ちマイクを口元に持ってきた。


〘第三魔装士官学院三縞校、訓練生代表の生徒会長です。本会場にいらっしゃる、本学院以外の全魔装士官訓練生に、作戦への協力活動を要請します〙

〘賛同いただける方は大きくおーきく、挙手をお願いしまぁす♪〙


 これが、いまだけは《パニィちゃん》を《生徒会長》と呼んだ理由。

 ゆえに間髪入れずにフォローを見せた。


 ハッ! 大きく手ぇ上げてくれよ。


 それとも挙手せず黙って逃げるつもりか・・・・・・・


 この大観衆の注目の中で逃げてみるか・・・・・・


 逃げて見ろよ・・・・・・


 逃がさねぇよ・・・・・・


 だから、お前たちに一部の選択もあたえないよう、こうしてさらし者にしてやったんだよ。


「ク……クク……クヒッ! クヒャッ!」


 だから俺は、そのシーンを見ることをずっと心待ちにしていた。

 いまや口元が歪むのを抑えもせず、馬鹿にしたような眼でだけを見た。


『お、お……落ちこぼれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


 それが一層、何とか取り繕うとした平静ささえ奪って、爆発させたらしい。


(ざ・ま・あ!)


 ……突然、俺にむかって叫び声をあげたのは《クズどすえ》。

 咆哮して黙り込む。しかし、憎悪と殺意の混じった目が俺を捉えて離さない。

 声には出さないが、口を動かした「コ・ロ・シ・テ・ヤ・ル」と


(クケケッ! やってみろよ!)


 咆哮で、周囲が《クズどすえ》に一層注目したのが幸い。

 少しだけ顔を上に向けた。ただでさえ壇上にいる状態から、《クズどすえ》を見下みくだした。

 ベロォっと、サイコパス宜しく舌を出して、両手中指を立てて見せた。


 気分は、少しだけ晴れたかな。

 今日の、クズ二人との悶着は、これをもって俺の完全勝利となったんだから。


〘ありがとうございます。全訓練生を代表し、御礼申し上げます!〙


 嫌そうに、ゆっくりと京都校の二人が挙手をしたのに続いて、この場にいた非協力的だったすべての他校の訓練生たちが手を挙げた。


 それを見た周囲の避難員たちが、再び嬉しそうに歓声を挙げた。

 出征がごとく、一人一人が大講堂を出ていくにあたっては、避難員たちが花道を作っていて、拍手と笑顔と激励で送り出していた。


『生徒会長から校内展開の訓練生へ! 他校訓練生による協力をとりつけました。連携し、引き続き対処に当たってください』


 いいね。少しだけ声色が明るくなった気がする。

 まったく、小さい体の癖しちゃって、背中がこんなに頼もしく心強い女の子ってなぁどうも……


『やったよ山本君っ♪』

「おう!」


 振り返った時に見せてくる笑顔なんてまぁ。キャワワでロリリしちゃって。

 要請にこたえてもらえてうれしかったのか、俺の手なんざ握り締め・・・・・・・・・・て来ちゃってまぁ。


(んじゃまぁ、なら次に進みますは、校内に結界術者がいるかどうかのなんだが。秘密結社ってのは刀坂たちと因縁あるってことらしいから、せめて学外であってほしいんだよな)


 もし校内にいたら……なんてごめん被る。

 3組は3組でも、俺は3組じゃない。だから秘密結社がらみそういうのは全部、校内には結界があって戻ってこれない刀坂たちにお願いしたい。


 当然だ。すでに俺の方針は決まっている。

 秘密結社なんてよくわからないもの、俺の人生物語には必要ないんだ。


(まぁ、そうなったらそうなったで、どうにかするしかないんだろうが)


〘えー、それでは迷子のお知らせです。学外からお越しの、祓希止水バラキシスイ様、祓希止水様。いらっしゃいましたら、壇上、《ゲームマスター》までお声かけください〙


 そんなことを考えながら、俺は一縷の望みを託して、心を読める女性に呼びかけた。


 結界がこの学院を危機に追い込むものだとして、ならば、強い悪意を感じ取れると思ったからだった。

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