第16話 閑話休題・枢軸国軍残党のリアリティ

 終戦後もナチスの彼らが活動なんて、あり得ないと考えられる方もおられるだろう。

 こればかりは国民性の違いもあるし、あまり日本人には知られていない前提も必要とする。

 実はドイツ敗戦で、かなりのナチス関係者が国外逃亡していた。もちろん史実においての話だ。

 捲土重来を期するつもりだったのかもしれないし、報復を恐れての逃亡だったのかもしれない。

 極東戦線と違って陸続きで逃げやすい上に、ほぼ全ての周辺国も疲弊していて……単純に逃亡しやすかっただけな可能性もある。

 また、国家の枠組みを超えた横の繋がりとでもいうべきものがヨーロッパには古くからあり、その伝を頼ったのかもしれない。

 とにかく終戦後に逃亡したナチス関係者がいるのは事実だ。これを支援した組織――オデッサすら実在している。


 そして政府が降伏した後に、武装解除へ応じなかった兵士も少なくない。

 撤退命令が届かず軍務を継続した場合もあったし、それどころか独立勢力となったケースすらある。

 ベトナムには残留日本兵が八百名ほどいた上、ベトナム民主共和国で軍事顧問的な役割を務め、さらには第一次インドシナ戦争へも参加した。

 これは「旧枢軸国の残党が、終戦後も軍事行動を続けた」とも言い換えれる。

 そして第一次インドシナ戦争は一九四六年から五四年まで続き、三世みつよたちにとっては現在進行形の出来事だ。


 世界各地へ逃亡したSS将校たち、それを助ける勢力、武装したまま残留しているドイツ軍残党、半自動的に新兵をリクルートするナチス・ファッション……ヨーロッパにとって、決してナチスの大火は沈静化していない。

 再び西ヨーロッパ全土が占領され、ロンドンへの空爆が開始されないとも限らなかった。


 またイスラエルの再建国が一九四八年――三世みつよたちには去年のことで、その翌年末にモサド――イスラエル諜報特務庁が発足する。

 すでに個人レベルや前身であるハガナー情報局によるは開始されていただろうが……モサドによる逃亡SS将校狩りが本格化するのは、五〇年代へ入ってからだ。

 つまり、三世みつよたちの生きる一九四九年は、最もナチス残党が活動しやすかった時期といえる。

 ただ狼狽したレンデンシュルツの漏らした『特務』に関しては、いまだ謎は残るも……それについて語るのは別の機会を待たねばならないだろう。

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