ONESCENE
神永ピノ
第1話広田と名瀬
“嫌いは本当に嫌いだろうか?”
最悪だ。不快だ。しくじった。
高校に入学して一週間。俺はやってしまった。それは……
「ひーろーたぁー、部活動見学いこーぜー」
この名瀬という男と友達(仮)になってしまった事だ。
「ん?どうした広田。もしかしてお前……女バレのマネージャーになってしまったのか!?くそっ抜け駆けなんてずるいぞ!!」
そう言って俺と無理矢理肩を組んできた。
こういうところだ。俺はこういうところが嫌なんだ。一週間過ごしただけで分かる。俺とこいつは合わない。こういう女絡みのしょうもない冗談も嫌いだ。
「んなわけないだろ。女バレにマネージャーなんて聞いたことねーよ」
「そんな本気で返すなよー。冗談だって。本当に広田は真面目だな」
(その真面目をおもちゃにして遊んでるのはどこのどいつだ)
俺は心の中で毒づいた。心で思うだけで、言葉にしないのは嫌いとはいえまだ出会って1週間だ。さすがに遠慮する。
名瀬は嫌だと思っている俺なんてお構い無しに肩を組んだまま歩きだした。
「いやー俺、文化部に興味あるんだよねー吹奏楽とか」
嘘つけ。お前が吹奏楽?そもそも楽譜読めんのかよ?
ずっとニコニコしながら名瀬は話しかけてくる。
「俺、中学では陸上部だったんだよねー。でもねーちゃんが吹奏楽やってて、楽器も楽しそうだなーって。ねーちゃんに相談してみたら、何事も経験だって。ほら、肺活量とか生かせるじゃん?」
冷やかしに行くだけかと思っていたが、意外にしっかりしていて驚いた。名瀬が自分の考えを言ったのは初めてだ。少なからず、俺は初めて聞いた。
俺は、しばらくポカーンとした顔で名瀬を見ていた。だから、名瀬の質問を聞き逃しそうになった。
「広田は中学何部?」
「え?あ……茶華道部」
「茶華道部!?へー、男で入ってるって珍しいな。いや、これは偏見か。でも、なんか似合うな、広田が茶華道部って」
さらっと肯定されてなんか照れくさかった。中学の頃、男が茶華道部なんてって、結構言われたから。
俺は照れ隠しで、名瀬に突っかかった。
「似合うって、からかってんのかよ」
だが名瀬は、ニカッと笑って言った。
「いや、これは冗談じゃないって。広田って会った時から大人っぽいなーって思ってたんだよ。それって、タッパがあるからかと思ってたけど、落ち着いてたからなんだなぁって納得した」
名瀬が素直に言うもんだから、突っかかった俺が子供っぽく思えて恥ずかしくなった。そう思いながらも、また照れ隠しで悪態づいた。
(タッパがあるって、お前と大して変わんねーじゃねーか)
心の中で。
“嫌いは本当に嫌いだろうか?いや、まだまだ時間はある。ちゃんと君と友達になろう”
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