ミステリ

「思い出したくもないさ、あんなこと」

「ああ、そうだな……」

「あら。何の話をしてるの? みんな」

 足音が聞こえた。その後、カツカツという音とともによく響く透き通った男の人の声が続く。

「1999年5月29日、ある屋敷で凄惨な事件が起きた。なんとその屋敷のパーティーに参加したすべての者たちが死んでいたのだ」

 カツカツという音はまだ続いている。また同じ男の人の声。

「死に方は多種多様――首から上のない者や、原型をとどめていないただの肉の塊や――それはそれはひどい現場だった。しかし、幸運にも一人だけ生存者らしき者がその場に佇んでいた――スカーレットお嬢様だ……。…………なんていう小説の話だよ。あまりにもおぞましいから、思い出したくもなかったんだろうけど、ああ、ごめん、余計よみがえっちゃったかな」

「「……」」

「済まないな、お前ら」

「あ、ああ。そうだな」

「お、おう」

 なんだか締まりのない雰囲気だった。それを感じ取った彼女は内心、不服だった。

(なんなのよ……、私に隠し事?)

「ふーん、なんていうタイトルの小説なのかしら? 興味があるわ」

「やめときなよ、女の子には結構くるよ」

「勝手に決めつけないでほしいわ。わたし結構怖くても平気なんだから」

「ほんとかなあ」

「そういうのはいいから。で、タイトルは何?」

「読みたいの?」

 先程の透き通った声の男が、彼女に笑いかけながら言った。

「え、ええ……」

 彼は全身黒のスーツを身にまとっている。一見喪服のような感じだが、シャツや靴下まで何もかもが黒だ。頭にはサングラスを乗っけている。背はすらっと高く、モデルのようなプロポーションだ。ぱんちの効いた服装とは裏腹に、顔は甘めの好青年を思わせた。

 そんな彼に彼女はどこか惹かれるものがあった。うっかり見とれてしまっていた。

 静寂の中、はっと彼女は我に返った。

 彼は、意地悪そうなにやけた顔で彼女を見た。彼は自らの顔に手をかざし、その後彼女に向かってその手を銃に見立てて「バーン」と撃ったふりをした。ウインク。

「惚れた?」


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