普通だよ
月環 時雨
佐野ありさ
新学期
やはり3月はまだ肌寒い。
よく卒業と桜は関連付けて考えられることがあるが、それは間違いではないだろうか。
実際卒業式なんて桜はまだ咲いていないし、3月に桜が咲くのは暖かい地域だけなのだろうと思う。
でも3月に卒業してしまうのは変わらない事実で。
もう少しここにいたいと思う気持ちなんて尊重されない。
卒業したら離れ離れになってしまうのに、卒業式は意外とあっけなく終わってしまう。
座っている間は足が疲れてきて早く終わらないかなあなんて考えるけれど、終わってしまうと寂しいのだ。
でもだからこそ、私たちは笑顔でお別れの言葉を言う。
5月。
新しいクラスの中のグループも、そろそろ本格的に固まってきたように思う。
それでもまだ皆どこかぎこちなかったりして。
私たちももう中学3年生。
学校の中で一番先輩で、どうしても先輩風を吹かせてしまうお年頃だ。
入学したての時は、小学校の最高学年からいきなり一番下に戻って少し居心地が悪かったのを覚えている。
そして私は、クラス替え直後の1学期も苦手で。
私にはそんなに早く友達を作ることはできない。
だから時間をかけて、ゆっくりと友達を作っていく。
でも、それはスタートダッシュが遅れているわけだからそんなに簡単に友達はできないんだ。
結局、1人でいるか、同じように1人でいる人とつるむことになる。
でも今年は違う。
始業式の日に声をかけてくれた前の席の子と、その子の友達と仲良くさせてもらっている。
「ねえさやっちー、宿題見せてー」
「衣緒ねえ、たまには自分でやってきなよ」
「えー。いいじゃんいいじゃん。ありさっちもそう思うでしょ?」
「え、えと、何?」
いきなり話を振られて、思わず変な声が出てしまう。
「馬鹿、ありさだって自分でやって来いっていうよ? ねえ?」
私の前の席の人である沙耶ちゃんもこちらを振り向く。
それがなんだが嬉しくて。
「ふふっ」
「え、ありさっち何で笑ってんの? どした?」
「ごめんね、なんか面白くって。えと、衣緒ちゃん、宿題は自分でやるものだよ?」
「ほらやっぱり」
「ええー」
私が沙耶ちゃんの意見に同意すると、衣緒ちゃんがふてくされたように頬を膨らませた。
友達っぽくていいなあ。
そう思うと、ニヤニヤと顔が緩んでしまう。
今までこういうやり取りって小説や漫画の中でしか見たことがなかったから。
「さやっち」
「何よ」
「明日はやってくるからさ、お願いっ! 今日は見せて!」
「う、うーん。今日だけだよ?」
沙耶ちゃんがノートを差し出すと、衣緒ちゃんはそれを奪うように受け取って声を上げた。
「やった! これで今日もなんとか乗り越えられるわー」
「っていうかなんで毎日私のところに来るわけ? 私がやって来てなかったらどうするの?」
「さやっちがやってこないなんてありえないでしょ。頭いいんだし」
「はあ……。この子はちゃんとした大人になれるのかな……」
「衣緒ちゃんは意外と世渡り上手なんじゃない?」
「お、ありさっちに褒められた! 嬉しー」
「いやあんた多分褒めてないよ」
「マジ⁉」
「あーうん。褒めてはないかなー」
「ガーン」
衣緒ちゃんの大げさなリアクションに、私たちだけじゃなく、周りにいた人たちからも笑いがもれる。
それに気づいた衣緒ちゃんが顔を赤くした。
「恥ずかしいんですけど」
「自業自得でしょ」
悲しいことに、この一連の流れは毎朝繰り返されている。
毎朝笑われているのに衣緒ちゃんもなかなか学習しない人だなあと思う。
クラスのグループは固まってきている。
でも、それでもまだぎこちなかったりして。
沙耶ちゃんと衣緒ちゃんは前から仲がいいみたいだけど、私はそうじゃない。
だから2人の過去とか、そういうのは知らない。
まだ私は表面的な友達なんじゃないかななんて考えてしまう。
毎日楽しく過ごしているけど、多分2人に何かあっても私は気が付かないんじゃないだろうか。
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