第12爆弾 ボンバーディメンションドラゴンスレイヤー

 ボムが目を覚ましたのは自分の部屋のベッドの上だった。

 ボムはいつものように階段を下り、博士の研究部屋に向かった。


 博士はまだソファで眠っている。

 硬いベッドではアーティが寝ていた。しかも少しいびきをかいている。

 博士がハートストーンをきれいにして戻したおかげで、アーティはすっかり元通りになっていた。


 ボムはアーティが寝ているベッドに座った。少しお尻が痛いがアーティをしばらく見ていたかった。

 するとアーティが寝返りをしたときに、アーティの膝がボムの背中に当たった。

「いたっ」


 ボムの声でアーティが目を覚ましたようだ。


「むにゃ、むにゃ…あ?ボムー?ここで何してんのー?」


 ボムはアーティの膝を押さえながら話す。

「ちょっと早く起きちゃって、アーティを見てたの」


 ボムの話し方に違和感を感じたアーティは真面目な顔で言った。


「もしかして…次元竜のこと?大丈夫だよ。お父さんとお母さんはきっと戻ってくるよ!」

「ありがとう、アーティ。わたしもアーティと一緒なら怖くない!だからこれからも一緒にいてね」

「なんか告白みたいで恥ずかしいね…でも、あたしもボムとずっと一緒にいるよ」


 ボムとアーティがやり取りしていると博士が起きた。


「わしは本当は止めたいんじゃがなぁ…」


 ソファからゆっくりと起き上がり座った。


「どうしても行くというから、今までの集大成の爆弾を作ってしまったよ…」

「博士ありがとう!それと、ごめんなさい…わたしのわがままに付き合わせて」

「今に始まったことじゃないじゃろ。いいんじゃ、わしがもっと早くお前の両親たちを助けてやれれば、こんなことにはなっておらん。じゃから気にするな!」

「うん!」


 ボムは静かに微笑んだ。


「そしたら朝ご飯食べない?お腹すいちゃったー」


 アーティが空気を読まずに言った言葉にボムと博士は笑ってしまった。


「のんきじゃな…少し高性能に作りすぎたかのう」

「そうだよ。天才すぎ、博士!ふふっ…」


 ボムとアーティと博士の3人は朝ご飯を食べた後、次元竜退治の準備をしていた。

 ボムは博士が渡した服に着替えた。と言っても、いつもと同じ迷彩柄である。


「この上着の中に一応発信器を入れておいたぞ!何があるか分からないからな。アーティはハートストーンを入れ直した時に体の中に入れてあるからな」

「えっ、どこどこ?音がしないなぁ…」

 アーティは体を横に揺らしている。


「音がするようには入れておらんよ。ちゃんと固定してある」

「ちぇーっ、鈴みたいに鳴るかと思ったのに」


 そう言うアーティは、黒地にオレンジ色の動きやすい服を着ている。

 そして博士は1個しかない特注の爆弾を丁寧にボムに渡した。受け取ったボムも大事そうにリュックにしまった。


「ありがとう博士。これでお父さんとお母さんを取り戻す!」

「あまり気負いすぎるんじゃないぞ。焦ると身を滅ぼすからな…」

「大丈夫!アーティもいるし。身体の力を抜いてやるよ!」

「よーし、行くぞー!」

「もう…はしゃがないの!」


 ボムたちは次元竜がいる廃採掘場へと向かった。

 研究所南東10キロ地点、ボムたちは2時間かけて廃れた採掘場に来た。掘りかけのトンネルがそのままになっており、つるはし、トロッコなどが置きっぱなしだ。


 少し前から次元竜の巨体が見えていた。遠くから見ると小さく見えてしまうが実際は大きい。ボムは幼い頃に見たので、余計に巨大に見えてしまったのもある。

 ボムは少し離れた所にリュックを置き、中から爆弾を取り出して次元竜の様子をうかがった。次元竜はその巨体をのそのそと動かして、どこへ行くわけでもなくうろついていた。


 ボムとアーティはそれぞれ爆撃拳を使った。

 アーティは足を肩幅に開いて深呼吸して、両手の同じ指どうしをくっつけて輪っかを作った。腕を前に伸ばしたままで心臓の前に引き寄せた。光をまとい力が何倍にもなった。爆撃拳―壱の型である。


 ボムは胸の前に両手で輪っかを作り足を肩幅に開いたあと、左足を前に右足を後ろに出した。次に右手の拳を斜め右前、左手の拳を斜め左後ろにして腕と足が十字になるようにした。最後にその場で時計回りに回った。するとボムの周りに風の膜ができた。爆撃拳―弐の型、天脚である。ボムが爆撃拳で唯一使える型だ。


 爆撃拳を使ったボムとアーティは次元竜の所に向かって走った。

 次元竜の後ろから近づいて行き、先制攻撃を与えたのはボムの爆弾だった。投てき爆弾が背中に当たって驚いた次元竜に畳み掛けるように、アーティが正拳突きをお見舞いした。

 次元竜は前屈みに倒れた。ように見えたがしっぽで辺りをなぎ払った。ボムは普通に避け、アーティは迫ってきたしっぽに両手を付き飛び上がった。アーティはそのままきれいに着地せずに尻もちをついた。しかし、すぐに立ち上がって難を逃れた。


 ボムは次元竜の足元を崩すために投てき爆弾を2つ地面に向かって投げた。爆発すると次元竜の足が地面に埋もれ動きが鈍くなった。その隙にアーティは渾身(こんしん)のかかと落としを次元竜の体に炸裂させた。次元竜はグギャオゥと鳴いて暴れた。続け様にボムが投てき爆弾を投げて爆発させた。爆発の煙が舞い上がった。辺りは一瞬静かになったが、その静けさはほんの一瞬だった。次元竜の体には傷1つ付いていなかった。


「ほんとに頑丈だな…うざぁ…」


 ボムは呟いてから息をふぅーと吐いた。


「アーティ、ちょっと時間稼いでくれる?新しい爆弾使うから準備したい」

「りょーかい!任せておいて!」


 そう言うとアーティは次元竜の所へ向かった。次元竜はすでに起き上がっていた。アーティは遠くから右手パンチを繰り出し衝撃波を飛ばした。次元竜も負けずにしっぽを振り回す。衝撃波で次元竜のしっぽが届くことはなかった。


 すぐさま次元竜に近づき、突きや蹴りを繰り返す。当たるたびに破裂音が鳴り響くが無傷だ。それぐらい硬いうろこで覆われている。


 次元竜はその特徴である爪を振り回してきた。アーティはその爪に当たらないように避ける。ひたすら避ける。当たったら最後、ボムの両親のように違う次元に飛ばされてしまう。そうならないようにアーティは次元竜の肩を狙うことにした。肩に力を入れさせないことで爪を当たらなくするというのが狙いだ。


「うりゃーー!」


 連続の突きを次元竜の両肩に均等に当てた。狙い通り次元竜は腕を動かせずにいる。

隙をついて次元竜のしっぽを持ち投げた。背中から落ち鳴き声を発した。攻撃が少し効いているようだ。

 ゆっくり起き上がるとアーティがすでに間近にいた。アーティは迷いなく次元竜のあごを殴り上げた。続けて腹、両腕、両足の順に突きを出した。次元竜も中々タフで、どれだけ食らっても腕を振り回し、しっぽを揺らして抵抗する。

「まだやる気なの?いいよ、付き合ってあげる!」


 その頃ボムは爆弾の準備をしていた。博士の渾身の爆弾は貴重な1つしかないので丁寧に扱う。強力な圧縮爆弾は今までの比にならないほどの威力を持っている。手のひら大の大きさで、まるでチューイングガムのようだ。小さいからと言って侮ってはいけない。その爆弾に秘められた力は未知数だ。


「よし、できた!」


 ボムはチューイングガムのような圧縮爆弾をベルトで手に巻きつけた。次元竜を確実に仕留めるためにボムが次元竜の近くで爆発するという寸法だ。当然、ボムが爆弾の影響を受けることはないように作られている。そこは今までの爆弾と変わらない。


 ボムがアーティに声をかけようとすると何か違和感があった。次元竜と戦っているはずのアーティがどこにもいないのだ。いるのは次元竜とボムだけだ。


「アーティ…?」


 目を凝らして次元竜を見ると、爪にアーティの服の切れ端が付いていた。アーティは違う次元に飛ばされてしまったようだ。ボムはそれを理解した途端に涙が溢(あふ)れてきた。


「アーティーーッ……!!」


 叫んだが帰ってはこない。次元竜も待ってはくれない。ボムは止まらない涙を手で拭(ぬぐ)うが、手がすぐにびしょびしょになってしまう。泣いている間にも次元竜の進行は止まらない。だが、ボムは泣けるだけ泣いた。泣きまくって全てをリセットした。そして止まった涙を拭って深呼吸した。今のボムに失うものはない。

「決着をつけよう、次元竜…!」


 お互いに近づいて行くボムと次元竜。

 ボムには次元竜がゆっくりに見える。実際はゆっくりではないが、すごい集中力でそう見えている。だから次元竜のしっぽ攻撃はもちろん、爪での攻撃も噛みつき攻撃も簡単にかわせてしまう。


 もうすぐそこまで迫ってきた。ボムは圧縮爆弾を付けた右手を前に出した。次元竜は両手でボムを掴みにかかった。だが遅かった。


 ボムが圧縮爆弾を握りつぶすと、まばゆい光と共に轟(ごう)音が響き渡った。土煙が舞い上がり辺りは見えなくなった。治まるまで少し時間がかかった。


 そして土煙が治まると次元竜は両腕を無くして生きていた。腕を無くして混乱したのかどこかへと消えてしまった。ボムはそこにいなかった。


 その日2人の少女がこの世界から消えた。

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