りんごの木
雨世界
1 月の重力
りんごの木
登場人物
プロローグ
りんごは、木から落ちる。
本編
月の重力
……あなたはいったい、どこにいるの?
「輪廻って、リインカーネーションの輪廻?」と家出少女の林檎は言った。
「そうだよ」と輪廻は答える。
それから輪廻は店内にある大きなテレビの画面を見つめる。
テレビでは今月の末に月に向かう大型の宇宙ロケットのニュースのお話が、その真っ白な宇宙ロケットの映像とともに流れていた。
「なんだか、変わった名前だね」
バナナの乗ったチョコレートパフェを食べながら、林檎は言う。
「うん。まあね」輪廻は言う。
輪廻は、自分の名前が少し変わった名前であるということを、これまでの人生においての経験によって、輪廻自身もちゃんと自覚していた。
「林檎だって、どちらかというと変わった名前じゃない?」
「そうかな?」
小さなスプーンを口にくわえながら林檎は言う。
それから林檎は、輪廻を視線を追って、あまり興味もなさそうな視線で、同じようにテレビを見た。
「宇宙に行くんだ」
林檎は言う。
「うん。そうらしいね」
と、輪廻は言う。
「なんで宇宙になんて行こうとするんだろうね?」
「さあ。なんでだろう? 私にはわかんない」
そう言って、輪廻は視線を林檎に戻した。
林檎も同じように輪廻を見る。
「あのさ、輪廻」
「なに?」
テーブルの上に肘をついて、頬づえをついたまま、輪廻は言う。
「デザート、お代わりしても、いい?」
にやっと笑って林檎は言う。
「いいよ」
同じように、にっこりと笑って輪廻は言う。
「あの、すみませーん」
ちょうど近くに女性の店員さんがいたので、林檎はボタンを押さずに、そう声を出して店員さをテーブルまで呼んだ。
それから林檎はチョコレートケーキを追加で注文する。
林檎と女性の店員さんがそんなやり取りをしている間、輪廻はずっと窓の外にある夜の街の風景に目を向け続けていた。
そこには輪廻の見慣れた、あの真っ暗な闇だけがあった。
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