第24話
毎年、この講座の最終日は身が引き締まる。
残念ながら、最下位の公立高校へ進む学力を得られなかった生徒は厳然といる。
そのような生徒には、併願した私立の過去問をやらせて、半ば個人指導的な方法を取っていく。
生徒のの顔を見ると、絶望感と諦めない気持ちは半々読み取れるものだ。
今まで手塩にかけて指導してきた生徒には何がなんでも第一志望の公立高校へ行ってほしい。
だから、授業後、講師陣は残業手当もないのに、じっくり指導してきたし、今日も最後の指導と思って、心のこもった指導をするだろう。
俺だって同じだ。
自分で自習出来る生徒は座らせておいて、何度教えても間違いをしてしまう生徒をピックアップして、数名指名して“残業”を始めた。
ふと見ると、彩子が隣の生徒に、
「次は? そうそう、それでいいの」
などと講師顔負けのファシリティを発揮していた。
“ずいぶん成長したなあ”
「先生! 聞いてんの?!」
「あ、はいはい、何だっけ?」
「だからあ、これでいいかって聞いてんのっ!」
「うむ、うん、出来たじゃないか! お前、出来たな!」
「イエーイ!」
「イエーイ!」
「いいか、おまえ、この塾で頑張ってきたんだろ?
すぐにわかんねえと思わないで、『あの時、先生はどうやって解くんだと教えたっけ?』って思いなさい。
わかったか。おまえは、集中すればできるんだから。
集中だぞ。
周りの空気に惑わされるな。
知らない奴が大勢いるけど、関係ねえから」
「俺、先生に教わってきて、嬉しかったよ」
柔道部のイガグリ男子が泣きそうになったので、ヤベって思って、
「ほら、家に帰って、もう一踏ん張りしてこい!」
と、追いやった。こっちまで泣けてくる。
まだ俺には3人も片付けなきゃならねえバカがいる。
また、ふと彩子の様子を窺った。
彼女は、今度は違う女子に手解きをしていた。
“こいつ、こういうのに向いてるかもしれない”
私は、沢崎先生のおかげで、すっごく勉強が好きになった。
なんだか不思議。
先生の授業ってちょっと変わってる。
いきなり授業を始めたかと思うと、幽霊の話をし始めたりして。
この前は、80分の授業のうち半分以上、怖い話だった。
でも、私、笑っちゃった。だって、全然怖くないんだもん。
思い切って、「小テストで満点取ったら『頑張ったな』って言って?」って言ったら、ホントに言ってくれた。
だから私、毎回小テストで満点取ろうって決めたんだ。
おかげで毎回、私を褒めてくれた。とってもそれが心地よかった。
でも、先生、私のこと、全然わかってくれない。
なんで、今もこうして教室に残っているのか、わかってる?
絶対わかってないよ。
鈍感!
私、高校へ行っても先生に教えてほしい。
そして、大学へ行ったら、先生と同じ塾で講師のバイトしたい。
だって、いつまでも先生と居たいから。
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