第10話

 落ち着いた俺は、一時間後再びINし食堂でおにぎりセットを食べている。


 冷静になったら色々と思い浮かんだ。一番は、何故回復魔法を使わなかったのか! だ。自分が思っている以上にパニックになっていたらしい。相手はヒカルだったし。

 だがそれよりピピだ! ピピは人間ではない。何故あそこであの選択なんだ!


 『なぁ、ピピ。どうしてHP回復に自然回復を選んだ? 回復魔法なら一発で一〇%超えると思うんだが……』


 『申し訳ありません。私も焦ってしまいまして……』


 『は? 焦る?』


 いやいや、ピピは人間じゃないだろう? いうなればAIだ! どうして焦る?


 『自分で言うのもあれなのですが、私には感情が与えられております。その感情により判断が鈍る事がございます。申し訳ありません』


 『………』


 それってつまりピピ……NPCにもリアリティーを持たせたって事か? ここの運営おかしいだろう。もっと違う所に持たせろよ! どこにと聞かれても困るが……。

 まあ、全ての選択の責任は自分で取れって事なんだろうけど。


 『も、もしかして、もう私は用無しなのでしょうか?』


 何故かしょんぼりとピピは言った。

 俺が黙っていたからだろうけど、本当に感情があるんだな。


 『そんなワケあるかよ! ピピのお蔭でどんだけ俺が救われていると思ってるんだ。あ、でも、次にこういう危ないイベントがありそうだったら、発生しそうな前に、ストップとか声を掛けて貰えると嬉しいな』


 『そうですね。私の判断でそれはギリギリOKという事で……。ですが、キソナ様にとって何が不利などの情報はお教え出来ませんので、そこはお許し下さい』


 目を潤ませ、嬉しそうに頷きながら言った。


 声掛けはOKなんだ。というか、本当はダメだけどこっそりね。って感じだろうか? 流石感情を持たせているだけある! まあ、こっちは女だとバレたらキャラ凍結なんだし、それぐらいは容認という事で。


 『ありがとう。ピピが使い魔でよかった』


 ピピは、嬉しそうにほほ笑む。いやぁ、カワイイ。これが魔王の使い魔なのかというぐらいカワイイ。


 俺は食堂を出ると、冒険者ギルドに向かった。そっと中を覗くがヒカルはいない。メル友リストを見るとINはしている。もしかしたら、他の人とクエストをしているのかもしれない。


 『なあ、ピピ。他の魔法使いのクエストも同じような感じか?』


 『それは……』


 『あ、そっか。そういうのが言えないのか。ごめん。取りあえず、青魔法使いも必要だし、強さから言って俺一人でも大丈夫そうだから、一人でチャレンジしてみる』


 『はい。ご健闘をお祈りします』


 俺は頷くと、青魔法使いのクスエスを受け、五〇T支払った。

 食事もしたし、金欠だな。これ終わったら討伐のクエストでも受けよう!


 赤湖の隣が青湖あおこで、今回はそこが試練の場所だ。うん。わかりやすいな。

 青湖の前に着くと湖の上には洞窟が浮かんで見える。さっき赤湖の前を通った時に、赤湖の上には何も見えなかった。クエストを受けると見える様になるようだ。


 「さて、行くか」


 俺は湖の上に一歩、足を踏み出した。それは沈むことなく、俺は歩みを進め洞窟にたどり着いた。中は前回と同じく暗く、水がほんのり光りを放っている。その色は青。やはり名前と同じ色らしい。そうなると、敵も青で統一か? まあ、会ってみればわかるか。


 刀を装備して奥に進んで行く。そして壁を通り抜け、俺は走り出した。敵を見つけるが逃げ出す! しかも結構早い!


 これ伝説の魔王で補正していても追いつけないんじゃ……。

 思った通り追いつけない!


 敵が止まり振り向いた。勿論、魔法を放つ為だ! 俺は食らうも気にしない。そしてもう一つ飛んでくる。


 刀でリーチが長いが、魔法を放った後また逃げ出した為、一撃も与えていない!


 これ五レベルから受けられるけど、ヒカルのようなスキル持ちと来ないとまず死ぬぞ。相手の逃げ足が速すぎる!


 台座まで来たが敵はいない。左右に同じ幅の道がある。どちらかに逃げたみたいだ。俺は、右の道に進んだ。前から魔法を飛んで来る!


 ビンゴだ!

 だが、後ろからも魔法を受けた。

 挟み撃ちかよ! 多分普通のレベル六だと死んでるな……。


 途中で回復していたとしても、二撃では倒せない。しかも回復魔法も普通は詠唱が必要だ。


 右に逃げた一体を壁際に追い詰めた。攻撃を二回入れ倒す。その間にも後ろから一度攻撃を受けた。

 一応一回、回復しておくか。


 「回復魔法!」


 自分が眩く輝く。


 また俺は走り出した。そのまま真っ直ぐ左端へ向かう。だが、斜め左から魔法攻撃を受けた!


 最初にいた道に逃げていたらしい。だー! めちゃ面倒だ! このクエスト!

 攻撃さえ与えられれば簡単なのに! 暗いから近くに行かないと目視できないし!


 今度は、入って来た壁の所まで戻って来た。ここも左右に道がある。

 どっちだ?

 そう思っていたら右側から魔法攻撃を受けた!


 こっちか!

 俺は右の道に進み、やっともう一体の敵を倒した。因みに服の色は青だった。もうどうでもいいけどさ。……疲れた。


 俺は台座の前に立った。青い玉がある。


 「これ独り言な。外に出てすぐに回復魔法を使おうと思うんだ。誰か俺が女の姿だった時間を計ってくれると嬉しいな」


 誰かって、ピピしかいないが。直接お願いは出来ないが、これぐらいの内容ならしてくれるだろう。


 俺は玉を手に取った。


 『汝に最後の試練を与えん!』


 赤の時と同じセリフが聞こえ、目の前が明るくなる。それと同時に俺は魔法を唱える。


 「回復魔法!」


 ポン。

 ポン。

 俺は目を開けた。メッセージが二つ並んでいた。


 《魔王補正が解け姿が元に戻りました!》


 《HPが一〇%以上に回復しましたので、魔王補正が掛かり姿が男性に変わりました!》


 メッセージ音がする前に回復魔法をかけたが、どれくらい女の姿でいたのだろうか? 感触では一瞬だけど。

 俺は、チラッとピピを見た。


 『素晴らしいです。外に出されたと同時に回復魔法が唱えられ、一瞬で男の姿に戻りました。まず一緒に来た者には見られないと思われます。もし万が一、この場に人がいたととしても、一瞬の事なので目の錯覚だと思うでしょう』


 よし! 上手く行った!

 回復魔法に詠唱が必要ないから出来る事だけどな!


 このクエストじゃなくてもイベントの職業でもこういうのあり得るからな。試して置いて損はない!


 『ありがとう。ピピ』


 『お役に立てたようで嬉しい限りです』


 うんじゃ帰るか。……いや、今日の目的のどれだけ強いかの検証をこのままするか。

 俺は来た道を十字路まで戻る事にした。


 『街には戻らないのですか?』


 歩き出すとピピが聞いてきた。


 『本当は強さの検証をしようと思っていたからさ』


 『そうですか。一応お伝えしておきますが、街に戻り青魔法使いを獲得致しますと本来は回復魔法を取得します。キソナ様は既にお持ちなので、回復魔法は能力UP致します』


 ピピの説明によると、『choose one』の魔法は、他のゲームと違い同じ名前の魔法を手に入れると、能力UPするらしい。まあ、レベルUPみたいなもんだろう。勿論消費MPも増えるが、威力が上がったり範囲が広がったりするらしい。


 さてどうしようかな。回復魔法は最初から三倍だし、今の所それで事を足りている。

 そうえいは、赤魔法使いを獲得してるんだっけ?


 気が付けばもう既に十字路だ。取りあえず止まって見てみる事にした。


 おぉ。覚えてる!

 見てみると赤魔法と表示されている。


 そう言えば 確かヒカルって最初から青魔法覚えていたよな? じゃ回復魔法持っていたんだ。というか、青魔法使い獲得したら、青魔法強化されるんだよな。


 赤魔法の詳細を取りあえず見てみるかな。


 ポン。

 《赤に属する魔法。使える魔法:火の玉「相手に当てるとダメージを二〇与えます。草なども燃やす事が出来ます。消費MP五」》


 『随分と簡素な説明だな。って草が燃えるって、山火事になるのか。そこもリアリティー持たせているのか。恐ろしいな……』


 『少し、魔法について説明いたしましょうか?』


 俺が驚いているとピピが察してそう言ってくれたので、俺は素直に頷いた。


 『この世界では、魔法をセットしておいてタッチして使うなどという機能はありません。聞こえるかきこえないかの声でもいいので発する事により詠唱を始めます。つまり、魔法の名前は覚えないといけません。また、魔法は強さの使い分けは出来ない仕様です。MPの消費が多いので前の方がよかったと思っても取得してしまえばどうにもなりません。それと、魔法攻撃の火以外の火に触れると、火傷の症状になり場所によっては動けなくなる可能性があります。体の七〇%が火傷になると死亡扱いになりますので、魔法を使われるよりも周りに火を付けられ、それによるダメージの方が大きいでしょう。キソナ様の場合は、火傷にはなりませんが、ダメージは受けますのでお気を付け下さい』


 思ったけどこれ、賢者になったら魔法の種類覚えるの大変そうだな。


 危険は充分わかったけど、初めての攻撃魔法だし使ってみたいよな。でもなぁ。森だと火事にしたら大変だし。やっぱり双子の丘でちょっと試してみようかな……。


 『双子の丘で火の玉を使って敵を倒してみたいと思うんだけど火事になったりしないよな?』


 『残念ながら丘にも草木が生えており火事になります。森林よりは消火しやすいですが、キソナ様はまだ青魔法の「恵みの雨」を取得しておられませんので、消火する事が出来ません』


 なるほど。恵みの雨というやつを青魔法で覚えるんだな。


 『山火事ってほおっておくとどうなる?』


 『はい。モンスターが居れば、倒す事も可能ですが、ほおっておけば一〇分後自然消滅します。ですが、国の兵士が原因追及に乗り出せば、下手すれば放火魔として扱われ、貢献に記載されます』


 うわぁ。火の魔法は使えないな。貢献って悪行も載るのか。しかも国の兵士に見つかればって、そこもリアリティーを持たせるんだ。見つからなかったらOKって事か。それってどういう仕組みなんだ? 見た人を探すみたいな本格的な事なんだろうか?


 『原因追及ってどうやるんだ?』


 『はい。冒険者ギルドで火事の情報を募集します。また兵士の巡回が始まります』


 うん。これ面白がってやる人が出そうだ。


 『もし見つかったら貢献に記載されるだけ?』


 『何度もやればお触れが出て、街での買い物、冒険者ギルドが使えなくなります』


 本当にそういう所にリアリティーを持っていくんだな。


 『ですが、ちゃんと機能するかは、まだわからないようです』


 それ言っちゃう? この世界のAI、つまりNPCは命令を淡々とこなすキカイじゃないもんな。何せ間違いもあるようだし……。そう思うと怖いよな。


 まずは恵みの雨を覚えるのが先だな。


 『なあ、恵みの雨はどうやったら覚えるんだ? 回復魔法を使えばいいのか?』


 『はい。青魔法使いがレベル五になりますと覚えます。青に属する魔法を三〇〇回使用するとレベル五になります。キソナ様ですと今の所回復魔法のみです。また、飲み水は、最大レベルの一〇レベルで、一四〇〇回になります』


 『ありがとう』


 経験値とかではなく回数なんだな。まあ三〇〇回ならいけるか? でも逆にHPが削られないから使わないんだよな……。面倒だけど戦闘が終わったら必ず回復でもするか。どうせMPも自然回復するんだし。


 飲み水は遠いな。まあでも、今すぐ必要なワケじゃないからいいか。

 という事で、一旦戻るか。


 『取りあえずは、恵みの雨取得を目指す事にしたからまずは一旦街に戻ろう』


 俺はピピにそう伝えると、ピピと一緒に街にワープした。そしてめでたく青魔法使いを獲得した。それをステータスで確認する。

 回復魔法の表示は消え、青魔法となっていた。別に覚えていても青魔法を覚えると、青魔法として扱われるらしい。


 一〇〇回復でMP一〇消費と詳細に出た。魔王補正がかかると三〇〇回復になるのか? 三〇〇削れるまで検証できないけど、そうだったらHP半分の回復は嬉しいかも。


 よし! 強さの検証と合わせて調べてみるか。


 『まずは双子の丘に行ってみる。で、まだ遠くに行けそうならもっと先に』


 『承知しました』


 俺は双子の丘目指して歩き始めた。

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