第16話 フロリダ Ⅰ

Oと会うことがなくなり、私は随分と変わったのだと思う。

普通の生活を送り5流の大学へ入学した。

OやAとの一風変わった関係もあってか、当時の私には普通というものが辛くも感じていた。

古い音楽や映画は変わらず好んでいたけれど、そういった趣味を語り合える友人ともあまり出会わなかった 。ごく少数の例えばjazzのミュージシャンや私と好みの似ている他大学の学生等もいたが、常に学舎で交遊する友人たちからは疎外感を感じていた。でも悪いことではない、自分とはまるで違う人生を送ってきた人々から教えられることも多い。例えばアニメやライトノベル、J-popやK-popについて。

J-popにしろK-popにしろ、学ぶというか感動することも多かった、その頃には音楽種類の毛嫌いという事もしなくなっていたし、最先端を知るというのも重要だと考えていた。ごく時々だけれどアイドルのシングルカットすらされなかった曲に製作者の音楽性深さを感じることもあった。しかし、初めてFrank sinatraの歌声やAlbert kingの弾けるトーンのギターを聴いたときのような、感動はなかった。でも、本当に素晴らしいものはあったよ。ただ眠っている虎を起こすことはなかった、ただそれだけなんだ。

しかし、永遠に眠り続ける虎は死んでいる虎と同じだ。だから当時の私は眠りを覚ますような体験を求めていた。

珍しく私はその事に関して努力したのだ。

 大学へ入った一年後私は所属していた射撃クラブの代表として小さな世界大会に参加した。

大学のサークルでありながら国際的な繋がりのある団体であるのが私が所属した理由だった。

日本全国色々と行ったし数ヵ国海外へも渡航した。

世界大会が行われたのはフロリダで、ちょうど私が行ったときは南国の真夏のようそうであった。ハワイとは違いフロリダは湿っけのある気候で、体から汗の吹き出しながら行う試合はまるで軍隊の軍事訓練のようなものだった。しかし、私は非日常的空間を楽しんでいた。

フロリダというところを想像すると大西洋に面したリゾートであったりアルパチーノがサマージャケットにシャツの襟を出して機関銃を撃ちまくってるようなイメージであったが。

大西洋に面しているのは事実として、海から離れれば静かなところだった。巨大なショッピングモールで余り日本では売っていない、メキシコ製のLevi'sのジーンズを買ったり、シャーマン信仰の御守りを路地裏の怪しい店で購入したりもした。それに湿地帯のクルージングなんかも彼方の主催者の好意で参加させてもらった。日本人が日本でいくら努力したって購入できないようなクルーザーが何隻も停泊していたし、マーヴィン・ゲイとタミー・テレールのデュエットが船内で流れれば、アメリカ人たちは一緒に歌っていた。しかし、日本人やインド人の選手にしてみれば知らない国の文化と言った感じで、皆外の鰐の住む湿地帯を珍しげに見ていた。

 何のこっちゃないただの旅行だった。軍事訓練は太ったアメリカ人とオーストラリア人の体調を伺いながら、昼過ぎには終わってしまうし、美しい大西洋を見たくとも主導権は此方にはなかった。

 試合がなく一中日フリーな日に私は思いきって、同じ日本からの選手であり同じ大学のIという女性に、ビーチまで行かないかと誘った。彼女はしばらく悩んだ末に"いいよ"と快諾した。

「正直私も退屈してるの、初めての海外なのにつまらなくって」

 Iという女性は同じサークルに所属する同級生であり、年も私と同じだった。小柄でずんぐりとした体型だけれど、色が白く鼻が高く二重だった、それに二つの黒目はまるで汚いものなどなにも見てこなかったようだった。

けして美人ではない、しかし、魅力的だったのだと思う、彼女に惚れているという二人の友人もいた。

 私はなんというか、当時、恋愛については"うんざり"としていた、Oの残した傷痕は大きすぎるほどに大きかったのだ。

若葉の時を無駄にしたと言われればその通りであろう。

実際、後輩には私達が付き合っていると思い込んでいた奴もいたし。

同級生の中には私に対する強い妬みから刃物を向けてきた奴もいた。

私は刃物が近づいてきても、怖いとは思えなかった。珍しい出来事だし、素人が包丁で襲いかかるでもなく、のそのそと近づいてきても、殺せるはずがない。刃物(よく見ると其はサバイバルナイフだった)が私の一メートルと少し近づいてきたとき。

私は彼に用件をいい、振り返って彼の部屋を後にした。

その後の彼の事はしらない。

噂では大学をやめたとか、精神病棟に入院したとか聞いたが。

正直今となってみれば、彼は被害者だと思う、別に私が加害者とも思えないけれど。責めるべきは馬鹿馬鹿しい"誤解"や"噂"にある。

私はIとSexすらしたことがないんだから。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る