side story
第零章 姫城静香
bonus1 男子生徒
初恋はよく叶わないと言われるけど、それはある意味で当然の事だと思う。
初恋と言うのは大抵、幼い頃にするものなのだから、その人との関係がそのまま大きくなっても続く事は少ないだろうし、多くの人は初めての恋は叶わない相手――例えば、先生やお父さん、親戚のおじさんとかにしがちなので、そういう理由もあって残念ながら初恋は、あまり叶わないのだろう。
なぜ私がそんな事を急に思ったかと言うと、顧問の
春休み、いつものように生徒会室に顔を出した私達生徒会役員に、竹内先生はそれぞれ何も言わずに書類を手渡してきた。
そこに書かれていたのは、彼の大まかな経歴とこれまた大まかな成績評。当然ながら個人データまでは記載されていない。生徒会役員とはいえ、さすがにそこまで知る権限はないだろう。
……まさかね。
私の初恋の相手は、数年前に会ったきりの従弟の男の子。
名前は
いや、忘れようと努力した、と言う方がこの場合正確なのかもしれない。
どうせ叶わないのなら、いつまでも思っていても仕方ない。そう当時の私は思ったのだ。……というか、自分にそう言い聞かせたのだった。
「彼が?」
「あぁ、今年の春に新しく入る新入生の子だ。名前は
「城島、孝君」
確か、初恋の彼の苗字は城島だったはず。苗字は合っている。合っているのだが……。
「なぜ今このタイミングでこれを我々に?」
「この学校が、来年度から男女共学になるのはもちろん承知してるな」
竹内先生の言葉に三人共に
男女共学の話自体は数年前からすでにあったらしく、私が入学して間もなくした頃にはもう近い内にそうなるという事は先輩や先生から聞いていた。
それが現実味を帯びたのが、去年の今頃。まさにこの場所で、竹内先生の口から由香里と二人でその話を今日みたいな感じに聞かされた。
その時はまだ一年後という事で、あまり実感はなかったが、そうか、もう数日後には男子生徒がこの学校に入ってくるのか。……考えると、少し緊張してきた。
「男女共学になった事で、この学校には女子と男子が同時に存在する事になる。しかし、人数的にも雰囲気的にも、どうしても男子は居心地の悪さを少なからず感じる事になるだろう。そこで案として
「男子生徒の意見も、しっかり学校側に伝わるんだというアピールのためですか?」
そう竹内先生に言う由香里の口調は若干冷めており、彼女が〝アピール〟に対して否定的な感情を持っている事がそこから伝わってくる。
「それもある。後は自分達の代表が生徒会にいるんだという気持ちを持つ事が、彼らにとってプラスに働くだろうと期待してる、とそういうわけだ」
「なるほど。それで新しく入る生徒は、この子で決まりなんですか?」
それまで手に持った書類をじっと見ていた
「一応、こちらとしては彼で決定という事にしたいと思ってる。成績、素行、生徒会経験、顔、その全てを加味した結果、彼以外に候補はいないと学校側としては思ってるんでな」
「「顔……」」
由香里と志緒ちゃんが、
「なんだ、二人は不服か? 私としては、合格点は
「いや、そういう事ではなく、やはりそこも要素の一つに入ってるんだなと思いまして」
そう言って苦笑を浮かべる由香里。
「顔はいいと思いますよ。うん。
「!」
志緒ちゃんのその言葉に、私は自分でもなぜだが分からないが、衝撃を受けた。
なんだろう、この気持ち……。分からない。分からないけど、あまり心地のいいものではない事は事実だ。
「お、志緒はこういうのがタイプなのか?」
「うーん。そういうのとはまた違うかな。後輩として、みたいな?」
「あー。なるほど」
そこに関しては意見が一致したのか、由香里が志緒ちゃんの言葉に頷く。
「
「私、ですか?」
突然、自分に話を振られ、私は少し考える。私情を消し、生徒会長として冷静な判断をするために。
「私はいいと思います。竹内先生の挙げた要素は、最後の一つを除けば生徒会に入る上で重要になってくるものだと思いますし、最後の一つも理屈としては分かります」
あくまでも理屈としては、という話ではあるが。
「よし。なら、生徒会からは反対意見は一つも出なかったと、上には報告しておくよ。まぁ、精々可愛がってやれ。三対一では、最初の方は肩身も狭いだろうしな」
そう言い残すと、竹内先生はそれぞれの手から書類を回収して、生徒会室をさっさと出ていってしまう。報告をしに行くのだろう。
「それにしても、生徒会に新たに男子か」
「由香里ちゃんは反対? 男子が生徒会に入るの」
「そういうわけじゃないけど。ほら、どうしても今までとは勝手が変わってくるわけだろ」
「例えば?」
「そりゃ、今まで以上に気を引き締めていかないと。特に志緒は暑いからって、だらしのない
「一応って」
「すまんすまん。言葉の綾だ。忘れてくれ」
「もう。
「え?」
志緒ちゃんの呼び掛けに、ふいに我に返る。
いけないいけない。いつの間にか、ぼっとしてしまっていたようだ。早く気持ちを切り替えなければ。
「どうした静香。具合でも悪いのか?」
「ううん。少し考え事をしてただけ」
「城島君の事か?」
「うん。まぁ、そんな感じ」
本当はほとんど何も考えていなかったけど、正直にそれを言うと心配されそうなので、とりあえず話を合わせておく。
「あ、静香ちゃん、男の人苦手だもんね」
「別にそういうわけじゃ……」
いや、苦手なのは事実だけど、そのせいでぼっとしていたわけではない。だったらなぜと聞かれたら、上手く答えられる自信はないが。
「大丈夫だって。もしアレな子でも、私がちゃんとしつけるからさ」
「犬でも拾ってくるつもりか、お前は」
「わん」
「お前が犬になってどうする」
二人の仲
とりあえず、家に帰ったら城島君の事を母に確認してみよう。
話はまずそれかたらだ。
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