第22話 待ち合わせと急用
コンビニの前に、二人の少女が立っていた。
二人共、似たような服装をしているが、受ける印象は真反対と言ってもいいほど違った。
方や
「お、来た来た。おーい、
向こうもこちらの存在に気付いたようで、江藤が片手を
俺はそれに片手を挙げて
「遅いぞ、孝」
「まだ五分前だろうが。おはよう、岡崎」
前半は江藤に向かって強めな口調で、後半は岡崎に向かって優しい口調で言葉を発した。
「あ、うん。おはよう、城島君」
俺達の
「ごめんね、急に呼び出して」
「そんな――」
「可愛い
俺の言葉に、江藤が妙な声色で言葉を被せてくる。
「……」
「
「……すみません」
俺と岡崎、両名から睨まれ、さすがに江藤も縮こまる。
「ところで、これからどこ行くんだ?」
このまま放置しても面白かったが、折角の休みに無駄な時間を
「学校の近くにお
気分を切り替えたのか、岡崎が笑顔でそう言う。
ん? 学校近くの、お洒落な、喫茶店? なんか、その三つの検索ワードを入れた結果、俺の中で一件のお店がヒットしたんだが……。
「ちなみに、その店の名前って……」
「あぁ。
あ、やっぱり……。
「ところで、
例の店に向かいながら、岡崎がそんな事を聞いてくる。ちなみに、並びは、俺・岡崎・江藤という順だ。
「軽く取ってきちゃった。二人は?」
「私達は普通に」
そう言って、岡崎が江藤に視線を送る。
「二人でね」
言いながら、江藤が岡崎と肩を組む。
岡崎は一瞬、驚いた顔をしたが、すぐにその顔に笑顔を浮かべた。
「へー。二人は何時から一緒にいるの?」
朝食を二人で取ったとなると、かなり早い時間から一緒にいる事になる。それこそ、〝朝〟と呼ばれる時間帯から……。
「というか、今日は由愛の家に泊まり」
「あぁ……」
江藤は、たまに岡崎の家に泊まっているらしい。この前のゴールデンウィークの時も、実はそうだったようだ。本当に仲がいい。
「
そう言って、俺に向け、挑戦的な笑みを浮かべてみせる江藤。
「なんでだよ」
「だって、由愛と一緒にお風呂入って、一緒に寝て、起きたら由愛の寝顔がすぐ近くにあるんだよ」
それは、確かに魅力的だが……。
「ちょっと、湊! 城島君に何言ってるの!」
さすがに聞いていられなくなったのか、岡崎が江藤に詰め寄る。
「馬鹿だねー。こういう所から揺さぶりかけないと、ただでさえ、ライバルは強敵なんだから」
「ライバルって……」
「……」
よく分からないが、これはあまり俺が聞いてはいけない話のような……。
こういう場合、素知らぬ顔で聞いてない振りをするのがいいのか、それとも暗に自分の存在を主張した方がいいのか……正直、反応に困る。
そんな俺の葛藤を余所に、二人の内緒話はそれから数分続くのだった。
「――いらっしゃいませ」
店内に入ると、すぐに女性店員が俺達の元に寄ってきた。
「三名様ですか? 空いてるお席にどうそ」
店員さんの向けた手の先には、空席がいくつも広がっている。埋まっている席は、全部で二つ。それぞれに一人ずつ、男性と女性が座っていた。
奥に進み、適当な席に腰を下ろす。
幸いな事に、
「あまり混んでないのね」
俺の正面に座りながら、江藤が辺りを見渡し、言う。
「穴場らしいから」
俺の斜め左に腰を下ろした岡崎が、同じく、辺りを見渡しながら言う。
穴場。そう。このお店は、あまり人に知られていない穴場のはず。なのに、どうして?
「そう言えば、二人はどうやってこの店の事、知ったんだ?」
「姉貴から聞いたの。姉貴、こういう店見つけるの、得意でさ」
「姉貴? ってか、江藤、お姉さんいたんだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 二つ年上、今は女子大生ってね」
「へー」
知らなかった。
先程の店員さんがやってきて、俺達の前に水とおしぼりを並べていく。俺と江藤はホットコーヒーを、岡崎はミルクティーをそれぞれ注文した。
「落ち着いた感じの、いいお店だね」
「でしょ?」
別に、自分の事を言われたわけでも、ここが行き着けの店というわけでもないのに、なんだか
程なくして、飲み物が届く。
それぞれの前に飲み物を置くと、店員さんは一礼をし、席から離れていった。
まずは、みんなで一口。
うん。相変わらず、この店のコーヒーは
「何これ。
カップから口を離し、
「ホント、
岡崎も驚いたように味の感想を告げる。
「だろ?」
「なんで、アンタが自慢げなのよ」
「え? なんでだろ?」
江藤に指摘され、理由を考えるが、適当な物は思い浮かばなかった。
本当に、なんでだろう?
「孝ってば、もしかして、この店来るの、初めてじゃない?」
そう言って、江藤が疑わしげな視線を俺に向けてくる。
「え? なんで?」
「だって、席に座る時の感じとか、立ち振る舞いが、なんか初めてっぽくないもん」
ま、別に隠すような事じゃないし、いいか。
「実は、二度目なんだ。ここ来るの」
「やっぱり。誰と来たの?」
「へ?」
「〝へ?〟じゃないわよ。孝がこんなとこ、一人で来るわけないでしょ?」
確かに。言われてみれば、そうかも。
「生徒会の人に連れてきてもらったんだ」
「生徒会って事は、
「あ、うん。いたよ。後は
俺の話を聞き、江藤が何やら岡崎に耳打ちをする。それを聞いた岡崎は、驚いたような顔で江藤を見て、そのまま二人は内緒話に移行した。
なんだって言うんだ、一体。
店内に入って三十分ほど時間が経つと、店の雰囲気にもすっかり慣れ、三人共、いい具合にダレてきた。
「そう言えば、由愛。部活入らないの?」
「うーん。特に入りたい所ないし。そういう湊だって、入ってないじゃない」
「まぁね。孝は……無理か」
「別に、入っちゃいけないわけじゃないらしいけどな」
「けど、部活に参加する時間なんてないでしょ?」
「割と
「あー。なるほどー」
ふいに岡崎が立ち上がり、
「ちょっとごめんね」
席を立つ。
俺にもデリカシーというものがあるので、さすがに〝どうした?〟とは尋ねなかった。
それから少しして、テーブルの上に置いてあった江藤のスマホが震える。
「あ、ラインだ」
スマホを手に取り、江藤が呟く。
そして、俺に向かって手を合わす。
「ごめん。急用」
「あ、そうなん。じゃあ、岡崎が戻ってきたら――」
「いや、ホント、今すぐだから」
言うが早いか、江藤は財布から五百円玉を取り出すと、それをテーブルの上に置き、
「じゃあ」
止める間もなくこの場から立ち去った。
「は?」
急な展開に頭が付いて行かず、思わず、その光景を何もせず見送る。
何なんだ、今のは……。
「あれ? 湊は?」
戻ってきた岡崎の声で、我に返る。
「なんか、急用とかで、今さっき、帰っちゃった」
「あ。そうなんだ……」
ん? 反応が……。
「じゃあ、私達もそろそろ出ようか」
「あぁ……」
会計を済まし、店外に出る。
喫茶店に行くという当初の目的は達したわけだし、このまま別れてもいいのだが……。
「あの、城島君。この後、
「暇だけど?」
というか、今日一日、特に予定はない。いや、予定がないのは、何も今日に限った事じゃないが……。
「だったら、ちょっと付き合ってくれない?」
「……はい?」
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