9 運命の踏切
運命の踏切
「じゃあ、巴ちゃん。もうさよならだね」
夢は巴にそう言った。
二人の乗っいる電車は、美しい星空の夜の中を、ゆっくりと減速して、やがて、無人の駅に止まった。
電車のドアはゆっくりと開いた。
巴は駅の風景をそこから見る。
すると駅には『天国』の文字があった。
それ以外は、さっき巴が夢と一緒に降りた、あの途中にあった無人駅の風景とほとんど同じだった。(違うのは天国の文字と、それから世界の風景がオレンジ色の夕焼けの風景から、薄紫色の眩しいくらいに綺麗で美しい、星空の風景に変わったことだった)
巴はゆっくりと席から立ち上がって、ドアのところまで移動をした。
それからぎゅっと、ポケットの中で『天国行きの切符』を握り締めた。
そして巴は振り返って、夢を見た。
夢は、振り返って自分を見ている巴の顔を見て本当に驚いた。
……巴は、泣いていた。
まるで小さな子供みたいに、ぽろぽろとその大きな二つの目から、大粒の涙をとめどなく、こぼしていた。(その透明な涙は、巴の頬を濡らして、やがて、電車の床の上にまで落っこちて、弾けた)
「……ばいばい」(泣きながら)にっこりと笑って巴は言った。
その瞬間、夢はどくん、と自分の心臓が高鳴るのを感じた。
そして、「待って!!」と大声を出した。
「え?」天国に降りようとしていた、巴が言う。
夢は思わず駆け出していた。
そして、気がつくと、天国に行こうとする巴のことを、……ぎゅっと、電車の降りくちのところで、思いっきり抱きしめていた。
「夢?」巴が言う。
「やっぱりだめ。……やっぱり、絶対に、『あなたを天国にはいかせない』!!」
そう言って、夢は泣いた。
……巴の胸の中で、ずっと、静かに泣き続けた。
「……夢」巴は言った。
それから巴は自分も泣きながら、ぎゅっと、自分を必死になって抱きしめてくれる夢の体を、自分もぎゅっと、抱きしめた。(心を込めて。……愛を込めて、抱きしめた)
「……ごめんなさい。巴ちゃん」夢は言った。
「ありがとう。……夢」と巴は言った。
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