戦場の霧 ~異邦の狙撃手 志茂 平経~
阿部 公一郎
第1話 嫌われ者の娘
ポランレフ=リエトヴァ共和国
ヴェンデンスキー県 マリエンハウス
「
私が馬上から声を上げると、十五人ずつ、直立した二列横隊の
腕や
「
「フラー!!」
「
「プラテル少尉!」
戦闘が落ち着いたと思ったときに声を上げたのは、私より階級が一つ低い中年のロベルト曹長だった。
それを確認した私は、片刃の
女が股を開いて馬に乗るなど、はしたないと言われる時代。
馬の先にある二つの影は、二匹の
六、七歳児ほどの身長をして、緑色の肌をした
私の乗っている馬は、乗り手の言うことをよくきく賢い馬だった。それでいながら、攻撃的だ。
鼻息を荒々しく満足げに頭を小さく揺らすと、次はお前の番だ、とでも言うかのように私が
残された一匹は、牛か
馬の走る勢いがあるとはいえ、
そのため、
私は鞍に差していた前装式
†
「村や畑を荒らしていた
馬から降りて、
「あの、……
荷台の下にできた大きな血溜まりを見て、村長が引き気味に答えた。
「山の中に放置しても竜や狼を引き寄せ、森の中で燃やしたところで森林火災になりかねないので。処分は、そちらでしてください」
「軍の方で引き取っていただくには」
「無理です。もう、いいですか?」
「えっ、あっ、はい」
「ロベルト曹長!」
名前を呼ぶと、曹長は馬の横で両手を組んで足場を作る。私は、そこに左足を載せると、
馬に乗って先頭を行く私の背後を、男たちが歩いて続く。前装式銃を左手に乗せて肩に担ぐ二列縦隊の
村の中を通り過ぎるときに、村人たちの
「まあ! 女の子が軍人をしているの? 綺麗な金髪を、あんなに汚して」
「女が軍隊にいるなんて、大丈夫か?」
「顔に血を付けて、貴族の娘の軍隊ごっこか。あれじゃあ、嫁の貰い手なんかいないだろう」
「馬鹿言え! あれは、プラテル将軍の娘らしいぞ? 普通にしてても、嫁に欲しい奴なんざいないんだから好き勝手やってるんだろう」
「プラテル? 大洪水戦争で交渉も失敗して、撤退にも失敗したプラテル将軍の娘?」
「そうさ。あいつの父親のせいで、ここらへんはルーシに荒らされちまったんだ」
「相変わらず、好き勝手に言ってますなあ。腹は立たないんですか?」
「立つに決まってるでしょ」
村を出ると、私のすぐ後ろををく歩ロベルト曹長が
「これだけ
「敗軍の将の娘が
それを聞いた兵士たちは、冗談と思って笑った。
ワルシャワ王立士官学校を十六で卒業して一年。
私が男で、父親の汚名がなければ冗談ではなかっただろう。常設される
ところが、私の赴任先は、ポランレフ=リエトヴァ共和国の北にあるマリエンハウスを
首都ワルシャワから直線距離で
任官から、分かりやすい左遷である。私以外にも、父の元で戦った王党派と言われるポランレフ人が各地に
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