第47話 隙をつかれて、異世界へ
村の門まで走っていくと、そこには人だかりが出来ているのが見えた。その中にタロがいたので話しかけて状況を尋ねてみる。
「タロさん、いったい何があったんですか?」
「おう、蓮人か。なんでもモンスターが結界を解除してしまったらしいんだ」
「モンスターがそんなことできるんですか?」
「結界を張るための石みたいなのがあるんだよ。それを壊せば解除されるのかもしれないんだが、今までそんなことはなかったから何とも言えない」
蓮人は自分がこの村を訪れた時のことを思い出した。
(タロがガサガサ草むらを探してやっと解除出来たんだ。モンスターが偶然でそれを見つけ、さらに壊すことなんて出来るのか……?)
そんなことを考えていると、門の上から大きな声が聞こえた。
「このモンスター共を中に入れるわけにはいかねえ! 敵はオーク共だ! 腕に自信のあるやつは出てこい! 行くぞ!」
(おかしい、それこそオークが結界を解除出来るわけがない。何か裏があるのか……?)
「リー、ポチ。何か嫌な予感がする。家に戻って装備を取りに戻ろう」
「私も賛成です」
「分かった」
村の中でさらに結界があることで気を抜いていたため、この日は鎧やローブなどは脱いで楽な服を着ており、辛うじて蓮人だけ帯剣している程度であった。
「タロさん、何か嫌な予感がします。俺たちは装備を取りに戻ります。タロさんも気をつけてください」
「ああ、用心するにこしたことはない」
そんな会話をして蓮人達は走って帰る。
「なんだか昨日も戦った気がするんだが覚えてねぇな……」
タロのそんな呟きは誰にも届かず騒ぎにかき消されていくのだった。
蓮人達は家までの道のりを全力で走っていたのだが、
――――ヒュン
そんな音と共に先頭を走っている蓮人に向かってナイフが飛んできた。そのナイフは直撃することなく、鼻先を掠めて隣にある家に刺さったのだが、蓮人達の足を止めるには十分だった。
「そこで止まってもらおうか」
「誰だ!」
奥の家の陰から4人の人間の男が出てきた。
「ガンズローゼズに決まってんだろ? お前らがとことん邪魔してくれっからよ、ボスである俺様が直々に殺しに来てやったよ」
「やっぱりお前らか。結界を解除し、門の前にモンスターを集めて騒ぎになってる間にこの村に入ったみたいだな。俺たちを殺すのが目的か?」
「いやー、ちょっと違うな。この間に何人かの獣人族を捕まえて売り捌くつもりなんだよ。お前らを殺すのはついでだ」
こんな会話をしている間に蓮人は敵4人の武装を確認する。
ボスと名乗る男は、自分の体とほぼ変わらない程のサイズの大剣を背中に背負っている。横にいるスラッとしているガリガリな男はレイピアのようだ。残る2人はデブっちょで見た目も体格もそっくりで杖を持っている。おそらく双子の魔法使いなのだろう。
(こっちは武器を持っているのは俺だけ。ポチは獣化すれば武器なしで戦えるとしても、リーは杖もローブもない。この状態で魔法使い2人の相手はキツいだろう。……仕方ないか)
「リー、俺とポチで持ちこたえる! その間に装備を取りに帰れ!」
そう言って蓮人は手のひらを敵に向け、炎を生み出した。全力の魔力を詰め込まれた炎はもはや火球と言えるものではなく、火の波と言うべきものだった。
「早く行け!」
そう言って蓮人は刀を抜く。
自分も戦うべきなのか迷っていたリーは、蓮人のその切羽詰まった叫びに背を押され、走り出した。
「さあ、ポチやってやろうぜ。絶対こいつらの好きにはさせない」
「うん! 他の仲間を攫うなんて絶対させない!」
ポチはそう言って雄叫びを上げ、獣化した。
そして1人と1匹は火の中へ突っ込んで行く。熱さに耐え火を抜けた先には、4人の男が武器を構えて待ち構えていた。
「バカめ! そんなもんお見通しだ! 撃て!」
ボスのその一言と共に、デブで双子の2人はお返しとばかりに2つの火球を放ってきた。
その火球を蓮人は雄叫びと共に刀を振り下ろし、両断する。そしてその背からポチが飛び出し、その2人に飛びかかる。
そのまま体当たりを食らわせ吹き飛ばし、追いかけて前足の重い一撃を喰らわせようとしたのだが、横からレイピアの風のような鋭い突きが放たれた。回避するため、ポチは慌てて距離を取り、蓮人の元へ戻る。
「ほお、やるじゃねえか。こりゃあワクワクしてきたぜ」
ボスは大剣を背から下ろし、両手で構えをとった。
その瞬間放たれた濃密な殺気に蓮人は1歩後ずさってしまう。
(……こりゃあちょっとまずいかも)
額から冷や汗を流すのだった。
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