第32話 2人の成長に、異世界へ
一方、レノは放つ魔法を全て無効化され、為すすべがなかった。しかも敵の男がかなり変態であった。
「いいなあ、そのどうしたらいいか分かんないって顔。たまんないよ」
ニタニタと気色の悪い笑みを浮かべながらリーをずっと見ている。
その目線にリーは寒気が止まらない。並々ならぬ身の危険を感じる。
「怯えて震えてるのもいいよ。君は僕のコレクションにしてあげるよ。とっても嬉しいだろう?」
「いえ、結構です」
「その冷たいのもいいよ。ああ、君は絶対に僕のコレクションにしてあげるよ。そのために心を折らなくちゃね」
この会話から、敵には心が折れた者に対して効果のある魔法があるとリーは考えた。
(私をコレクションにするなどと言っているので、私を傷つけずに心を折るつもりなのでしょうね。舐められたものです。蓮人さんもポチちゃんも頑張っているのに、私だけ心を折られてたまるもんですか!)
とりあえず、リーは現状を整理する。
敵はリーが生み出すウインドアローの位置と角度、向きなどを見てから進む向きを割り出しているのだろう。そこに寸分違わず同じ威力のものを放ってきていると考えられる。
そこでリーはあることを閃いた。
(そうか! 見てからウインドアローを作っているんだ!)
敵はリーの魔法が発動してそれを見てから対処を始めているのである。
では、見えない魔法であればどうなるのか? それは対処出来ないということになる。
しかし、見えない物などこの世にあるのだろうか?
1つは空気がある。しかし、これは攻撃に使う場合、目に見えてしまう。
ウインドアローはいわゆる空気の矢であるが、風をクルクルと回転させることで矢の形にしている。そうすることでかなり小さな竜巻を作り出しているイメージだ。
空気でダメージを与えるならばそうしなければならないため、目に見えてしまう。
しかし、この世に見えないものはもう1つある。そう、光だ。
漠然と太陽光が降り注いでいると感じているが、実際にそれを肉眼で見ることは不可能なのである。
(これだ!)
リーは今まで使ってこなかったが、光属性魔法の適性もある。浄化に特化した属性ではあるが、光の矢を作ることくらい造作もないだろう。
そしてリーは意識を集中させる。
ウインドアローを発動し、一本の矢を作り出した。しかしそれは敵を欺くためのもので、本命はそれに合わせて作っている光の矢だ。
無事に成功した。目で見えることはないが、リーには魔力でどこにあるかが手に取るように分かる。
「いけー!」
その合図と共にリーは2本の矢を発射する。
「もういい加減諦めて心折れちゃい……」
男はウインドアローは今まで同様に完璧に対処して見せたが、光の矢は男の心臓部を貫いた。
おそらく即死だろう。声を上げることなくそのまま地面に倒れ伏せる。
「や、やりました……」
そう言ってリーも地面にしゃがみこむ。なんだかんだ気力の限界だったのだ。
「2人とも、無事でいてください……」
そう言ってリーは意識を手放した。
ポチは体の焼けるような痛みに耐えていた。
「グウウウウウ」
少年の高かったポチの声に、どこかケモノのような荒々しい声が混ざっていた。
体の光がより強くなっていく。
(あ、熱い。なんだこれ……。でも、力が溢れてくる)
体がどんどん大きくなって、ケモノの毛が体中に生えてくる。
そして一際強い光が辺りを包んだ。
「アウォォォォォ」
その光が止んだ場所には、あるオオカミのようなケモノがいる。
(凄い、なんだこれ)
そしてポチは自分の体を見回す。全身に毛が生えてきて爪もかなり伸びている。そして何より、四つん這いになっている。
そう、ポチがオオカミになってしまったのだ。
(なんだこれ! オオカミになってる!)
だが、敵は現状を確認するのを待ってはくれず、飛び掛かってきて今度は蹴りを食らわせようとしてくる。
しかし、少し前までは速く避けきれなかった攻撃が今は止まって見えた。バックステップで避け今度は前足での薙ぎ払いを食らわせる。ほとんど力を込めず叩いただけだったのにも関わらず敵はまた吹き飛んだ。
(やばい! めっちゃ強い!)
ポチが驚いている間に敵は起き上がり、もう一度飛び掛かってきた。それをもう一度避け、体勢が崩れたところに今度は本気のカウンターを頭に食らわせた。
そして敵の頭が爆散し、崩れこんだ。
敵の死を確認した後、ポチの体がまた光り出した。その光が収まるといつもの子供の体に戻っていた。そして倒れこんで眠りにつく。
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