第29話 妖精を助けに、異世界へ

 オーガをあっさりと倒した後、まだ時間が早いのでもう少し森の中を探索することになった。

 3人は道に迷わないように気を付けながら慎重に歩いて行く。

 そのとき、ポチはある匂いを嗅いだ。


「何か匂いがするぞ?」


 そう言って辺りをキョロキョロし始める。


「どんな匂いですか?」


「うーん、何か懐かしい匂いがするんだけど、それだけじゃなくて嫌な臭いもする」


「とりあえず行ってみるか」


 蓮人のその言葉に2人は頷き、慎重に歩き出す。

 その匂いの正体はすぐに分かった。

 小さな少女が鉄の檻の中に捕らえられていたのである。

いや、小さな少女という表現はおかしい。なぜなら、身長は30センチメートル程であったのである。そしてその背には2対4枚の丸い羽が生えていた。

 いわゆる、妖精だったのである。

 蓮人達の姿を見つけた妖精は目に見えて怯えだす。


「助けて……」


 籠の中で頑張って距離を取ろうとしている。


「どうしたんだ?」


 ポチがその妖精に尋ねると、その妖精は少しホッとして


「私を捕まえに来たんじゃないんですね、あの助けて貰えませんか?」


 小さな体で90度のお辞儀をしてそう頼み込んでくる。


「いいぞ!」


 その鉄の檻は木の実を拾うと落ちてくるような仕組みになっていたらしい。

サイズも妖精で3人程入れるかどうかといったものなので、最初から妖精の捕獲を狙っていたのだろう。

 ポチはそう言ってその鉄の檻を持ち上げて妖精が通れる隙間を開けてやる。

 その隙間から抜け出した妖精は蓮人達の目線の高さまで飛んで、お礼を言う。


「ありがとうございました! 私は妖精族のシルフィーです! このままでは私を捕まえた人に連れていかれるところでした。本当に助かりました!」


 そう言ってまた90度のお礼をする。


「お礼ならポチにしてやってくれよ。見つけたのも助けたのも、ポチだからさ」


 蓮人はそう言ってポチの背中を押してやる。

 その言葉に従って妖精はポチの目線の高さまで降りてきて、さっきと同様に90度のお辞儀をしてお礼を言う。

ポチはむず痒そうに、でも嬉しそうにしている。

 そして、シルフィーから何気なく告げられた言葉が蓮人達を驚かせる。


「でも獣人族の人がこちらの森で人族と共に行動するなんて、初めて見ましたよ」


「お、おい。なんでポチが獣人族って分かったんだ?」


「なんでって言われても、この森の隣の森で暮らしてるじゃないですか」


 思わぬ所で重大な情報を手に入れるのだった。


「お、おい!  その話もっと詳しく!」


 3人はシルフィーにグイグイ近づいて詳細を尋ねる。

シルフィーはそれに少し引きながらもしっかり答えてくれた。


 なんでも、獣人族は隣の森に集団で暮らしており、その森から出てくるのは珍しいそうだ。しかも獣人族は他の部族とはあまり関わることをせず、人族には存在を知られることを良しとしない考えがあるらしい。そのため、ポチと一緒に蓮人達がいたことに驚いたそうだ。

 それについて、蓮人達が成り行きを説明する。


「なるほど、ポチさんをお届けするためなんですね。それなら隣の森なのですぐですよ。ただ……」


「ただ……何なんですか?」


 シルフィーが言うか躊躇っているのに、リーは問いかける。


「その森のモンスターはこの森よりもとっても強いそうで、蓮人さん達が太刀打ち出来るのか分からないのです……」


 そこでリーはハッと何かを思い出す。


「もしかして、隣の森って嘆きの森なのですか……?」


「そうです!  ご存知ならば話は早いです!」


 蓮人とポチには何が何だか分かっていない。リーは解説し始める。


「嘆きの森というのは、他の森よりも数ランク上のモンスターが生息しており、ギルドではギルドマスターの許可を貰った人しか立ち入り出来ないルールになっています……」


「おいら達じゃ無理なのか?」


 ポチはランクについてよく分かっていないのでそんな反応をしている。


「ええ。先程のオーガなんか敵にならないくらいのレベルでしょう」


「それは厳しいなぁ」


 折角自分の部族の居場所が分かったのにも関わらず、その森には入ることが出来ないので肩をガックリ落としているポチである。


「とりあえず、ガサラに帰ってギルドマスターと話をするしかないか」


 蓮人がそう話をまとめたとき、後ろから何者かが現れた。


「おいおい、人様の獲物をなんで勝手に逃がしてんだ?ああん?」


 蓮人達4人は一斉にそちらを向いて警戒する。そこに居たのは3人組の男だ。冒険者にしては凶悪な顔をしている。


「こいつら、この前のガンズローゼズの匂いがするぞ……」


 ポチが皆にそう伝える。


「おいおい、お前達が昨日俺達の手下を可愛がってくれたやつか? ちょうどいい、皆殺しだ」


 そう言って、昨日の5人組とは比較出来ないほどの凶悪な笑みを浮かべ剣を抜く。その威圧はとんでもないものだった。

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