第26話 ポチと仲間に、異世界へ
「落ち着いたか?」
ポチは蓮人とリーに挟まれて背中を撫でられながらしゃっくりを上げているが、もう泣いてはいない。
「うん……」
「まだ不安か?」
ポチにとって、やっと害を為さない人間が見つかったと言っても、いつ裏切られるか分からない状態である。不安になるのも無理はないだろう。
勿論蓮人とリーにそんな気はサラサラないのだが。むしろしっかり守ってやらねばと意気込んでいるくらいである。
ポチに安心してもらうにはどうしたらいいのか。2人は考える。
(やっぱりあれしかないよな)
リーと、このことは内緒にすると決めていたのだが、ポチが仲間になったのなら言ってもいいだろう。
それでポチが安心出来るのならば安いものである。
「なあ、ポチ、聞いてくれよ。今から俺の秘密を話すからさ」
そう声を掛けられてポチは顔を上げる。目が真っ赤に充血してしまっている。
そんなポチの頭を優しく撫でながら、
「俺って異世界人なんだ」
そう告げる。
蓮人の予想外の言葉にポチは固まった。
「ど、どういうこと?」
そうして、蓮人はポチに自分が元は日本に住んでいたこと、リーの助けを呼ぶ声を聞いて女神様に頼んでこの世界に転移させてもらったことを話した。
ポチは驚いて声も出ないようだ。
「驚いたか?」
ポチはぶんぶんと音が聞こえそうな程首を縦に振っている。
「これで、俺達の間には何の秘密も無くなったな。お互いをきちんと信頼し合えるようになったと俺は思う。隠し事が一切なくなったんだからな!」
そう言って蓮人はポチに笑いかけ、リーも頭を撫でてやっている。
ポチは2人から顔を逸らし、俯いて考え込む。しかし、次に顔を上げた時は清々しい顔をしていた。
「おいら、蓮人とリーを信じるぞ! だっておいら達は仲間なんだもんな!」
そう言ってポチは無邪気な笑顔を浮かべる。
ポチにとって、これで本当の仲間が出来たのだった。
場所を変えて、大きな岩の影に隠れて休みながらこれからの事を話し合う。とは言ってもやることは変わらず、蓮人とリーはポチを親の元に帰すだけなのだが。しかし今までの計画では村々を訪ねて回るつもりだったがその意味がなくなってしまったのだ。もう一度決めなおさなければならない。
「さて、とりあえずポチが『獣人族』っていつことは分かったが、何か故郷だったりについて覚えたりしてないか?」
「分かんない……。 気づけばあの街にいたんだ。変な男に連れられて。そしておいら必死に逃げ出したんだ」
「おそらくどこかの森から連れてこられたのでしょう……」
そのリーの考えには賛成である。ポチが森で1人で居た時に人間に見つかってしまったのだろう。
そんなこんなで森を探すことになったのだが、ガサラ付近は木が鬱蒼と茂っており、たくさんの森があるため検討もつかない。
そもそもガサラ付近の森から連れて来られたかも分からないのだ。
「とりあえず今日はガサラに戻ろうか。もう日が暮れそうだしな」
日の出の頃に街を出たはずなのに、気づけばもう夕暮れであった。
「おいらお腹減ったぞー」
ご飯ご飯と言っている。どうやら完全に立ち直ったみたいだ。
元気になってくれて良かったと蓮人は胸を撫で下ろす。
そうして3人はガサラに向けて歩き出す。
「クンクン」
ガサラへの帰り道、ポチが何か変な匂いを嗅ぎ付けた。
「何か嫌な匂いがする」
そう言って周囲を警戒し始める。
それに従って蓮人とリーも周囲を見回す。
すると、少し奥の草の茂みから5人剣を持った人達がヘラヘラとしながら出てきたのだった。
「バレちまったか。さすがの鼻だな、獣人さんよ」
「あなた達は何なんですか! なぜポチちゃんを知っているのですか!」
リーが杖を構えながらその5人組に問いかける。
「ああん? お、よく見るとこいつめっちゃ可愛いじゃねえか。高く売れそうだなぁ、おい! けど売る前に俺達と一緒に遊んでもらいてえなぁ!」
リーの問いに答えることなく、気持ち悪い笑みを浮かべながらゲスい話をしている。
リーは怯え、そして醜さに吐き気を覚えている。
そして蓮人もまた、腹がグツグツ煮えたぎるほどの怒りを感じている。
「お前らがポチを攫ったんだな?」
「だったらどうすんだ?」
5人組はヘラヘラしながら悪びれもせずそう答える。
「まあどうせお前らも殺されるか売られるかだからそんなこと気にすんなって。おっと、その女には俺達の相手してもらわなきゃなんねえけどな」
そう言ってハッハッハとバカのように笑っている。
そのとき、蓮人の中で何かがプチンと切れた。
「リーもポチも好きにさせねえよ。殺されるのはお前らだよ、このクズ野郎」
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