・・・

『その電話を早く捨てろ。遠くへ!!』

 頭の中に声が響く。土だらけの私の手の中には穴を掘って取り出したスマートフォンが握られていた。きしむ腕を曲げながら画面を見たら、ヒビだらけで使い物にもならないものだった


「捨てないで! 捨てちゃダメ。上に、そこにもあるから」

 高宮さんの声に混ざり、違う人の声も混ざる。

 私の視界は相変わらずモノクロだけど、ざざっと時おりカラーになりはじめた。

『うるさい! 捨てろ!』

 見上げた視線の先、緑に茂る草々が覆い被さるように光を遮っていた。


『みるな! まずはこの女を始末しろ』

 草々の合間にちらりと見えた透明の袋。揺れる木々の音に混ざりながら、上のほうにくくりつけられている袋が目に入った。猫になった気分だ。遠く小さく揺れる袋に焦点が合った途端、ズームしたように目の前に大きくそれが現れた。


 白いスマートフォンだ。ところどころ黒ずんでいるのは血のあとだろうか。

 あれだ。あの電話が探し求めているものだ。

 木登りは得意分野だ。それこそジャッキーのビデオでなん十回も見て覚えた。

 足の親指と人差し指を開いて掴むように登る。竹登りの時はそれだけど、木だって同じようなもんだ。通用するはずだ。


『登るな!』

 頭の中に入り込んできた高宮の声に耳の奥がきんきんする。耳を押さえた。が、片方の手は動かない。


「出雲さん」

 そうだ。私のすぐ近くには出雲さんがいるはずだ。乗っ取られるわけにはいかない。湖の意識が段々と戻ってきた。


「僕がいることにやっと気づいたの? 遅いよね。何回も呼んだのに君はまったく聞く耳を持たないし。まあいいよ」


 耳に届く出雲大社の声。体が何かに弾かれた。目の前がカラーになる。

「見つけました!」

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