「出雲さん、ひとつ聞いてもいいですか?」

「ひとつならね」

「花井さんが妊娠しているなんて知りませんでした。それにお腹の中の子供の本当の父親って」

「そうしてくれって頼んできたのは彼女の後ろにいる霊だよ」

「……霊……」やっぱいるのか。

「君、霊なんてもんはどこにでもいるんだよ。覚えておきたまえ」

「幽霊と話していたってことですか?」

 その問いに出雲大社は唇を斜めに上げるのみだった。


「にゃあ」

 足元にすりよってきたコテツは八の字に湖の足の間を行ったり来たりすると、まるで誘導するように入り口の方へと移動した。

 コテツから目を離し、出雲大社の方に向直れば、既にその姿はない。辺りを見回してみたがどこにもいる気配がしなかった。


 開かずの間の真ん前では母猫が細い目でじっとこっちを見つめている。相変わらずしっぽだけはパタンパタンと床を叩いていた。ということは部屋に入ったってことか。


 挨拶くらいしてくれてもいいのに。と湖は頬を膨らませた。

 明日、また同じ時間に来ればいい。


 そう言い聞かせコテツの頭を撫で、お告げカフェを後にした。

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