第79話 アンダーカバー(潜入捜査)

 吉法師はセスナを飛ばして紫禁城の位置を地図で確認しその方角へ飛び続ける。帰蝶が転移した場所が上海の沿岸付近だったため紫禁城までは1000キロの距離がある。5、6時間はかかりそうだ。もっと近くに転移してくれればよいのに、と帰蝶を恨めしく思う吉法師であった。しかし、行った事が無い場所に転移できない帰蝶には紫禁城近辺には転移できない事をすっかり忘れていた。


 2時間ほど飛び続けたところで大事な事を思い出した。中国の服を手に入れないといけないことだ。近くに臨沂りんぎという都市があった。臨沂は城郭都市で街の周りを高い城壁が囲んでいる。城郭の中は人でごった返し人口の多さを感じさせえている。吉法師は城壁の近くの林の中にセスナを隠し徒歩で臨沂へ向かった。


 城壁内には簡単に入れてくれた。高級そうな服を販売している店もすぐに見つかった。服を選んでいる時にふと気が付いた。


 そうだ、お金を持っていない。


 吉法師は産まれてこの方、若様育ちで支払いをしたことが無く、常に政秀が支払いを済ませていた。その為吉法師は支払いの事をすっかり忘れていた。というより、支払いを考えてもいなかった。


「この服いくらだ。中国の服一式欲しいんだけどどれを買えばいい?それと着方を教えろ。」


「(中国語)【あんだ、おめぇー、何言ってるだぁー。おめぇー、何処の田舎もんだぁ?】」


「あ。日本語分からないのね。」吉法師は途方に暮れてしまった。


 暫く歩いていると、刀を持った5人組が目の前に現れた。


「(中国語)【おい、ガキ!いい服着てるじゃねぇか。金持ちだろ。お前の親から身代金を支払ってもらうぞ。】」


「何だ、お前ら。刀持って強盗か?」


「(中国語)【何言ってやがる、さては田舎もんだな、おめぇ。お前ら捕まえろ。】」


 吉法師は刀を抜いて構えた。一瞬強盗はたじろいたものの、相手は子供だと気を取り直したようで強盗も刀を抜いてきた。


 吉法師は外国で問題を起こしたくなかったので自分の刀で目の前の強盗の刀を叩き落した。すると次の強盗が襲ってきた。上段から打ち下ろしで吉法師に切りかかる。吉法師を真っ二つにする気だ。最早誘拐する気は失せ殺人に切り替えた様だ。

 吉法師は、盗賊の鈍い攻撃を躱す事もせずその手を切り落とした。


「(中国語)【うぎゃぁぁぁぁ】」


 手は肘から切り離され転がった。


「(中国語)【てめぇ、なにしやがる】」


 吉法師は、もう一人の首に刀を突き付けた。


「おい、金が欲しいのか?金なら持ってないぞ。」


 すると刀を首に突き付けられた盗賊が懐を探り始め、懐から袋を取り出し吉法師に差し出した。


 吉法師は片手で刀を突き付けたままそれをもう一方の手で受け取り中を確かめた。

 中には、硬貨らしき丸い金属が襲種類入っていた。


「お、これはお金か?1種類ずつ貰うぞ。」


 そう言って硬貨を1種類ずつ貰い残りは盗賊に返した。


「1枚ずつ貰っていくぞ。残りは返すよ。じゃあな、ありがとうな。」

 そう言って盗賊をその場に残し吉法師は誰もいない裏道を探した。


 誰もいない道が見つかったので、先ほどの硬貨を土魔法で作る。漢字で数字が書いてあるので多分これが一番高いだろうと予測したものを多めに作る。

 服屋へ行き服を見繕いお金を全て見せる。


「これで足りるか?必要な分だけ取ってくれ。」


「(中国語)【え?こんなにもらえるのか?いいのか?じゃあ全部貰うぞ。ありがとうな。】」


「え、服が高いのか?金を全部持って行くのか。高いんだな。」


「谢谢、谢谢。」


「お、それは分かるぞ。ありがとうだな。しぇいしぇい。」


 すると、先ほどの強盗が未だいる。腕を切り落とされた仲間の血を止めていた。今にも死にそうだ。


「こりゃ、やばいな。死ぬかもな。帰蝶に連絡してみるか。」


 そう独り言を言うと、先ほど貰った携帯電話という名の送受信機を取り出しスイッチを押してみた。


「もしもし。」


『何よ、もうかけてきたの?何かあった?』


「お、もうつながったのか。千奈、仕事が早いな。ちょっとこっち来れないか?」


『手を切って血が止まらないんでしょ。今行くわよ。』


「なんで分かったんだ?」


 既に電話は切れていた。すると目の前に帰蝶が現れた。


「なんで手を切ったってわかったんだ?」


「上から見てたのよ。」


「え?どういうこと。」


「チナチアットで様子見に来たのよ。50m程上空から見てたのよ、あなたの珍道中。作った贋金にせがね、服屋に全部取られたでしょ?千奈が全部訳してくれたから噛み合わない会話が面白かったわ。でも、盗賊と戦ったのは格好良かったわよ。」


「それは良いから早く治してくれよ。」


「はい、はい。『治癒魔法』」帰蝶は両手をで切れた腕を肘に当てそう唱える。


 すると一瞬の光の後傷跡も無く腕は繋がった。


「谢谢、你是救星(ありがとう、あなたは命の恩人だ。)」


「不,欢迎你(いえ、どういたしまして)」


「お前中国語が分かるのか?」


「千奈に訳してもらったの。さぁ、服も買ったし早く行きなさいよ。様子見てるから。」


「どうやって?」


「ハエ型ドローンを飛ばしてるのよ。衛星は未だだけど近くにいるから電波は繋がるから。衛星よりも先にダーリンの潜入アイテム作ったんだって。」


「俺はそのドローン使えないのか?」


「これを耳の後ろに張り付けて。骨伝導で千奈と話せるらしいわよ。それと、これコンタクトレンズ。」


「俺目は悪くないぞ。」


「これでドローンの画像が見れるのよ。ハエに潜入させてその画像が見れるし、その画像は記録されてるから。」


「このレンズ毎日外さなければならないのか?」


『いえ、レンズは細胞の様な物質で出来てますので暫く外さなくても大丈夫ですよ。』


 自分で耳の後ろに骨伝導の受信機を付けたとはいえ、突然聞こえてきた千奈の声に吉法師は少し驚いた。


「サンキュー、千奈。これで潜入も安心だ。」


「それじゃ、行くから。」


 そう言うと帰蝶は消えチナチアットへと戻った。


 吉法師がセスナへ戻ろうとすると盗賊が話しかけてきた。


「強いな坊ちゃん。手を治してくれてありがとうな。」


 骨伝導で千奈が翻訳した言葉が聞こえる様だ。


「気にするな。それより強盗はもう止めろよ。真面目に働け。」


「いや職が無いからな。なかなか働けないよ。」


(あれ、こっちの言葉も訳されてるぞ。便利だな。)


 すると千奈の声が聞こえてきた。


(何か考えられても、こちらではそれをまだ読み取れません。可能ですがデバイスの製造が未だです。声に出して話して下さい。)


「わかった。」


「何が?」


「いやこっちの事だ。ちょっと、もう一度、金見せてくれないか。」


「良いぞ、どうぞ見てくれ。」


 吉法師は貨幣を受け取ると後ろを向き複製し始めた。幸いこの近辺には貴金属が豊富のようだ。金も豊富だ。金は延べ棒にしてポケットに詰め込んだ。


「ほら、このかねを元手に何か商売しろ。」


 そう言って吉法師は盗賊に金を渡した。勝手に金を作って中国の経済がインフレになろうとも吉法師には関係ない。


「ありがとう、ありがとう。」


 そう言うと、盗賊は大層喜びながら去って行った。吉法師は初めて見る城郭都市の内部を楽しみながらセスナへと戻って行った。


 セスナへ乗り込むと、独り言のようにしゃべり始める。


「俺が話す言葉も相手には中国語に訳されて聞こえるのか。」


『はい。ただ日本語も聞こえます。可笑しく聞こえます。皇帝は転生者だと聞いたので多分吉法師様を中国人でないが翻訳の能力を持っているか別の方法があると思うでしょう。ですので、皇帝に余計な情報を与えない為にも聞こえる中国語は訳しますが話す時は訳しません。日本人に育てられて中国語は話せないというべきかもしれませんね。』


「ドローンに命令する時と映像を見る時はどうするんだ?」


『私に言ってもらえれば実行します。』


「よろしく頼むよ。なんか眠くなってきた。」


『今度セスナも改造しましょうか?』


「よろしく頼むよ。ずっと操縦じゃ、疲れる。」


 吉法師は残り700kmの道程を時速200キロで紫禁城目指して飛んで行く。




 一方、更に上空で吉法師の様子を見るのにも飽きた帰蝶とエリカはドラマを見ていた。


「この24時間頑張るドラマ面白いわね。私が中学生の時に日本が占領されてドラマなんか見れなくなったから。小さいときは漫画とかアニメとかも見れてたんだけど。」


「まるで刑務所ね。」


「21世紀の刑務所の方がましよ。中国人のモノ扱いだから。気に入られたら持ち帰られるのよ。拒否権無し。刑務所はさらにひどいらしいわよ。所長や刑務官はすべて中国人で毎日犯されるらしいわよ。」


「地獄ね。」


「だから、戻って大中華帝国の統治を終わらせたい、良いころの日本を取り戻したい。そして、私を殺した人間と国に復讐したい。」


「がんばってね。」


「あなたも行くのよ。」


「なんで私が?」


「友達でしょ。」


「でも私未だ子供よ。」


「そのうち大きくなるわよ。それに私よりも凄い能力持ってるでしょ。」


「じゃぁ、Fカップになったら付いて行ってあげるわ。」


「何その遺伝子的問題。遺伝子的に無理ならずっとむりじゃない。」


「神にお願いしたから大丈夫よ、多分。」


「ねぇ、吉法師くんはまだ時間かかりそう?ここから重力魔法かなんかで速度速めたら?」


「それより、紫禁城付近までセスナごと転移した方が良いかも。」


『しかし、もし皇帝が探知する能力を持っていた場合、転移の能力が知られてしまいます。今後有利に事を運べなくなります。それどころか皇帝が有利に事を運んでしまう可能性もあります。普通に飛んで行かせるのが一番です。』


「そうだよね。わかったわ。24時間頑張るドラマの続きを見る事にするわ。」


 こうしてファーストシーズンの第5話を見いている途中で吉法師は紫禁城へと到着した。

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