オリジナルスキル-1
あのときと同じだ。
ゲイルをぶっ殺したあのときと。体が、軽い。萎えていた全身に力が漲る。
刀を目の高さに掲げて眺める。美しい桜色の刃も油で浸したように蒼く燃えているが、この炎は今回、俺の体から溢れ出たように見えた。
『【????】……抜刀で開放』と記された《魔桜》の
【
そうか……この炎は刀じゃなくて、俺の体の中に移っていたのか。どうして今、このタイミングで出せたのかは分からないが。
もう負ける気がしない。
吹き飛ばされた獅子は四足を踏ん張って立ち上がると、俺に血走った眼光を向け大音響で吼えた。大地を削るようにして、音の塊が真っ直ぐ俺に突っ込んでくる。
攻撃範囲の広い
パァンッ!!――巨大な風船が割れたような破裂音と共に、風が俺と、目を剥いて絶句するハルカの髪をバサバサかき乱す。
「うるせぇな」
放出系の攻撃には耐久値がある。こちらがそれを上回る攻撃を与えれば破壊や相殺ができるのだが、咆哮攻撃も例外ではなかったらしい。
炎を纏ってからと言うもの、SPが栓を抜いたような勢いで減り続けている。時間はかけられない、か。
地を蹴るなり、爆風のような向かい風を切って、俺の体は獅子の鼻先まで一息に飛んだ。急接近した青く燃える人間に、自我を持たぬはずの獅子の目が怯んだ。
「死ね」
ただ叩きつけただけの斬撃が、ヌシのHPをごりごりごりっと食い破った。二発、三発と刀を振るうごとに蒼い炎が乱舞する。刀が軽い。これならばスキルを使う必要がない。
「おっと」
景気よく切り刻んでいたところ、いきなり獅子の体が爆発した。飛び退って距離を取った俺は、空中でヤツの異変に気づいた。砂塵に包まれて見えづらいが、ヌシの体から何やらドス赤いライトエフェクトが湯気の如く放出されているではないか。
気づけば、HPバーが黄色から赤に変色している。残量一割以下の証。最期のパワーアップ、ということか。
「ハルカ、立てるか!」
「……なん、とか」
「俺が隙を作る。あの技を準備しろ!」
ゴワァッ、とヤツが一声吼えただけで、辺りの砂塵が吹き散らされた。あらわになったのは、全身の体毛を逆立たせ、赤いライトエフェクトを火花の如く八方にぶち撒ける砂漠の王の姿。
その爪が大地を撫でると、途端に獅子の右前足に真紅の雷が堕ちた。濃密な赤い光を纏った爪を振りかざし、獅子は後ろ脚の筋肉を肥大させ、鋭角に跳躍した。
――速いッ!
今までのが止まって見えるほどの突進速度で瞬く間に間合いを喰われる。真紅のエフェクトを撒き散らして、ヌシの巨体が、爪が頭上に堕ちてくる。
「……邪魔だぁッ!!」
臆さず見開いた目が、爪の軌道を精密に弾き出した。真っ向から逆袈裟に斬り上げた刃と爪が激突し、途方もない量の火花を
この炎があればハナミヅキを皆殺しにできる。こんなところで時間を無駄にしている暇はない。
邪魔なんだよ。消えろ。
腹の底から絶叫する。視神経が白熱する。どれだけ叫ぼうと、力を込めようと、ステータスの限界値以上の筋力は出せない。体重を乗せた獅子の一撃の方が、俺の捻り出せる最大値より僅かにパワーが大きい。分かっていても、やめなかった。全身の炎が更に爆発的に膨れ上がり、刀にまとわりつく。
「――……ォォォォォォォオオオオオラアァッ!!!!!」
手応えが消えた。かち上げた刀が獅子を空中でひるませ、吹き飛ばす。
「今だ、ハルカ!」
背後で、震えながら片膝をつき起き上がったハルカは、上空に打ち上げられた獅子に
その切っ先に、今にも破裂せんばかりに輝きながら滞留する、赤黒いライトエフェクトの塊。
「……【
解き放たれた極太の光線が、一直線に駆け抜ける。さながらほうき星、赤と黒の入り乱れる光芒が獅子の土手っ腹に突き刺さって、ヌシの残存ライフをついに削りきった。
大輪の花火のような光景だった。赤や黒の効果光に彩られて、ヌシの巨体を構成していたポリゴンが粉々に爆散した。ガラスを砕いたような音を立てて、砂の洞窟に荘厳な光の雪が降る。
『《砂漠の迷宮》がクリアされました。
攻略者……《Setuna》&《Haruka》』
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