乾いた牙-2

 なおもその場で目をこする獅子に次々と斬撃を与えていく。その俺に当たらないよう、的確に背後からハルカの【ホット・ショット】が飛んできて獅子に命中する。攻撃を続けながら、頭の中でカウントアップ。三、四、五……六。獅子が復活した。復活するまでのインターバルは6.0秒。


 血走った目で俺を喰い殺そうとする獅子だが、間髪入れず、その鼻先で二度目のフラッシュボムが炸裂した。完璧なタイミング。獅子はもう、これから何一つさせてもらえない。


「ハルカ、次は5.4だ!」


「了解」


 フラッシュボムは連続で使うたびにモンスターに耐性をつけられてしまう。通常、一度使うごとに《幻惑》の効果時間が一割ずつ減っていく。ヌシも同じかどうかはここで判断する。


 少しゆとりを持って攻撃を打ち止め、距離を取る。結果、インターバルの減少割合は通常と同じ一割だった。《幻惑》から脱した獅子の鼻先で、可哀想になるほど正確に三発目のフラッシュボムが炸裂する。


「よし、次は……」


「4.8でしょ」


 ……どうやらもう攻撃に集中して良さそうだ。相棒の優秀さに満足しながら、刀を振るう腕もなんだか景気が良くなってくる。獅子のライフが、いよいよ半分に近づいてきた。このまま一気に畳み掛けてしまおう。


 四度目の【雷轟】発動。SPを短時間に使い続けるたび、激しく走り回ったような疲労感が蓄積するのはVRゲームならではの仕様だ。今はその疲労さえ、心地良かった。


 稲妻を帯びた刀が獅子を斬り裂いた瞬間、とうとうヌシのライフが半分を切った。バーの色が緑から黄色に変色し、次の瞬間――獅子の喉から爆音の咆哮ほうこうが轟いた。


 鼓膜が破れたかと思った。張り手のような衝撃がガツンと前方から俺を殴った。意識が白く濁る。視界がぐるぐる回り、あちこちを強く打ちつけながら脳が激しく揺さぶられる。気がつけば、俺は獅子から五メートルも離れた場所に這いつくばっていた。


「ぃ……っ、てぇ……!?」


 しまった、と心のなかで呪詛を吐く。考えが甘かった。《幻惑》状態にしたからと言って、《麻痺》と違って体の自由まで奪うわけじゃない。目が見えなくとも関係のない、周囲を丸ごと薙ぎ払うような範囲攻撃がある可能性まで考慮すべきだった。


 さっきのは、咆哮攻撃フリックボイスか。大きなモンスターの中には叫ぶことで近くのプレイヤーの身動きを短時間鈍くするものがいたが、まさか物理的に吹き飛ばすようなバケモノがいるなんて。


 頭が揺れている。全身を打撲したような痛みで、体が動かない。何より、あれだけでHPが三割近く持っていかれた。それでも、どうにか起き上がったとき――すぐ頭上から、獅子が降ってくるところだった。

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