第9話「建築家と会長①」

 日本の有名な建築家に堂安がいる。この建築家は国際的にも有名だ。

 堂安建築といえば、コンクリート打ち放しのミニマルなデザインを思い浮かべる人が多いだろう。一般の人でも名前を知っている稀有な建築家なのだ。重厚感を感じさせる建築が特徴であり、個人の住宅、オフィスビル、ホテル等、今まで設計してきた建物は数知れずだ。堂安は建築家としての才能もすごいが、話もうまい。テレビやトークショーにも引っ張りだこだ。

 満水ハウスでも、オフィスビル設計等で堂安に依頼したことがあった。奥平会長お気に入りの建築家であり、同じ関西出身ということもあり奥平とはプライベートでの親交もあった。

 その堂安と奥平が顔を合わせたのは木曜日だった。社長の平野は同席しなかったが、会長とオフィス開発の部長陣が堂安と昼食をとったのだ。

 この昼食時の会長発言が平野の耳にも届いてきた。同席していた開発担当部長によると会長はこう言ったという。

「先生。私はあと五年は会長を続けるつもりですわ。海外の事業を成功させてからじゃないと引退できません。」

 親しい建築家との、たわいもない会話だ。

 しかし、見過ごせない内容でもあった。

 会長は来年で満水ハウスのトップについてから20年となる。年齢も現在72歳。来年で引退するのではないかと社内外から言われていた。そもそも奥平は平野自身にも会長を10年勤めたら引退すると言っていたのだ。

 会長が引退しないとすると、自分だけ首を切られるかもしれない。平野の脳裏にはそんな疑念がわき上がった。

 これには伏線がある。

 つい最近、同業のヤマトハウスの社長が交代したのだが、名物会長の石橋は続投していた。上場企業の創業家でもないサラリーマン経営者なのに、ヤマトハウスの石橋会長はオーナーのように君臨している。そして、社長だけを引退させて自身は続投したのだ。

 同業のヤマトハウスにライバル心を燃やす奥平が、この事実を意識しないわけがない。そしてヤマトハウスの石橋会長は奥平の3歳年上であり、奥平と同じ関西学院大学法学部卒だった。

(続く)

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