第14話 胸騒ぎの気配
日向町駅前に葉桜高校のスクールバスが到着する。
ここで降りるのは二人の女子高生、早貴と千代だ。
朝と同じくバスの窓からは残った生徒達に見られている。
気づかない二人を生徒達から引き離すようにバスは去って行った。
相変わらずの光景。
横断歩道を渡り、ゆっくりとした足取りで坂を上り始める。
最近の千代は、このタイミングで早貴と手を繋ぐようにしていた。
早貴も手を握られると同じ力加減で握り返す。
その反応が嬉しくて千代の顔が綻ぶ。
そこで会話が始まるのだが。
「そういえば、綾の話ってどうなんだろうね」
昼休みに綾が聞いていたという、木ノ崎が電話をしていた時のこと。
綾が最初に伝える相手と言えば、奏となる。
その奏はこの二人と同じクラス。
綾は二人とも仲が良いため一緒に聞いたというわけだ。
「ただ電話していたって話でしょ?」
握り合う手を大きめに振りながら早貴が話す。
「話していた相手も内容もわからないんじゃ気にしようも無いと思うけど 」
と言いつつも、交互に出される自分のつま先を見つめて表情を軽く曇らせる。
言葉とは裏腹に気にしているようだ。
「そうだね」
千代は、つま先を見つめている早貴の真似をしてみる。
変化した表情には気づいていないのか、笑みを浮かべている。
「なんかさ、綾の話し方って盛り上げるのが上手っていうか、気になっちゃうんだよね」
「ああそれはあるかも。綾が混ざると話が盛り上がるもんね」
「ね!」
「いつでも楽しくしてくれるからいいよね」
「綾と奏、好きだなあ。楽しい」
つま先から千代へ目線を変え、頬に鼻が付きそうなほど顔を近づけた早貴。
「アタシと話すのとどっちが楽しいのよ?」
「え!」
突然近づけられた顔と、間近で呟かれた声。
ふいを突かれて頬を赤らめる千代。
「さ、早貴と話す方に決まっているじゃん! もお」
近いままの早貴へ振り向き、にやりとする。
「もしかして、妬いてくれた?」
「ううん、たまにはこうしたら喜ぶかと思って」
早貴は姿勢を戻して笑った。
「ああ、意地悪だ!」
握った手をグイっと引っ張り肩をぶつける。
「キスしちゃえばよかった」
「勿体ない事したねえ、近づけてあげたのに。ふふふ」
「う~、立場が逆転していて悔しい! 前なら早貴が憧れてくれていたのにさ」
再度千代を見て早貴は答えた。
「今でも憧れているよ。だって、可愛いもん。仲良くなれて良かったなあって」
手綱のように腕を引いて歩きを止めさせ、千代は地面を蹴ってみせる。
「あたしの気持ちで遊ぶな!」
「駄駄っ子みたいにしないの! 遊んでなんかいないよ? 可愛いなあ」
今度は早貴が腕を引っ張り、隣に戻させて頭を撫でる。
「告白してからは千代が変わったから」
少し膨れ顔で俯き気味だった千代は、目を合わせた。
「告白って言うな、恥ずかしいから」
「ご~め~ん。カッコいいと可愛いのバランスが逆転したんだよ」
撫でる手は休めないまま身体を千代に向ける。
「カッコカワイイのは変わらないんだけどさ、アタシの前だと可愛いんだ」
首を傾げる千代を見て微笑みながら話を続ける。
「カッコいいなって時と、可愛いなって時だとそれに合わせてアタシも変わるじゃない」
「ん~、わからなくもないけど。なんか照れる」
「憧れている部分もずっと変わっていないよ。でも、からかい易くはなったかなあ」
「この!」
千代は強めに早貴の背中を叩いた。
「痛い! やったな!」
掴んだり掴まれたり、追いかけたり追いかけられたり。
じゃれ合っているうちに終わりを告げる曲がり角に到着する。
「汗かいた。着いちゃいましたよ、お千代さん」
「あっはは。久しぶりにはしゃいじゃった。シャワー浴びたい」
「それね。では、シャワーを浴びに帰りますか」
同時に片手を挙げてハイタッチをする。
手を振りながら別れた。
すっかり走ることも無くなっている上に、足の怪我もあった。
そのため激しく動くことが久しぶりで、心臓の鼓動を強く感じていた。
息が落ち着かないうちに帰宅する。
玄関を上がるとリビングへと進み、母に顔を見せに行く。
「ただいま」
「おかえり、早貴。千代ちゃんと遊んだの?」
「なんで分かるの?」
「息を切らしているじゃない。慌てているわけじゃなさそうだから、それしかないでしょ。仲が良いのはいい事よ」
お互いにクスッと笑い合う。
母、時子は思い出したことを早貴に伝える。
「あ、そうそう。今日ね、瀬田さんの所から見掛けない女性が出て来たわよ。たぶん研究所の人なんでしょうけど、例の話がまだ解決しないのかしらね」
「そうなんだ。最近話していなかったから聞いておこうかな」
「そうなの? ちゃんと話はしてくれないと、こちらも落ち着かないから頼むわよ」
「分かった。後で聞いてみるね」
自室に入るとベッドに倒れ込む。
「タクから連絡も入らないし、すっかり忘れかけていたなあ。家にも行きたいんだけど」
起き上がって家着に着替える。
ポケットから携帯を出して机に置くと、じっと見つめた。
「女性、か。お母さんの言う通り、研究所の人だよね。聞けばいいか」
今すぐに聞きたい衝動が湧くのを感じながらも、着替えを進める。
連絡を取るにはまだ早い時間のためだ。
モヤモヤを感じながら洗濯するものを一階へと持って行った。
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