第84話:りおんちゃん

桐谷目線―――

 どれだけ探してもりんちゃん…じゃなくて凛音ちゃんは見つからない。それはそうだ。うちにいるんだから。羅希ちゃんと百鬼君はすぐに見つかりそうだが、もう夕暮れ時だし、見つかる確率は低いと思うなと繁華街を歩く。うちの生徒ではない、他校の生徒達が放課後楽しそうにゲーセンで遊んでいる。これが多分”普通”の中高校生活なんだろうな。

「桐谷。今日は解散だそうな。お疲れ様。直帰していいぞ。」

「お疲れ様でした。」

 学校に車を取りに帰り、さっきの道とは正反対の街頭のない暗いいつもの道を車で走る。

「ただいまー。」

「おかえりー。」

「りんちゃんは?」

「熱があって寝てるわよ。」

 部屋に行くと汗をかき、肩で息をしていた。

「蒼桜にい…。」

「蒼桜君…。」

 息子が死んだ時に羅希ちゃんがボロボロの中、支えてた姿を思い出す。初めて会った会った時は、大人しくて一生懸命な子だと思っていたな…。あの子たちはもう3年生か。あの子達にとって息子が大切な先輩であり、教員以上に頼れる存在であったように、この子にとってもそうなんだろうな。事情が分からないから、聞き出すことも出来ないし、この状態で軍に渡すことも出来ない…。私情だと分かっていても、羅希ちゃんと重ねてしまう。頭を撫でると少し表情が緩む。嫁に渡された濡れタオルで少し汗を拭いてあげる。

「ん…。」

「大丈夫?」

「あの…。」

「ん?」

「ありがとう…ございます。」

 絞り出した声は感謝の言葉を発していた。極限状態で苦しい中、なかなかそう言える子は少ないんだけどな。この子はいい子なんだな。だけど、なんでこんな子が発砲事件を。頭を撫でて大丈夫だと伝えると、

「私…。」

「ん?」

「本当の名前は…凛音です。」

「りおんちゃん?」

 頷くりんちゃん…じゃなくてりおんちゃん。

「なんで教えてくれたの?」

「私、信じるって…信じれるって…思って…。」

「うん。」

 信じれる…。

「だから、ちゃんと名前言わなきゃって…。」

 いい子だな。

「そうか、ありがとう。一つ聞きたいことがあるんだ。りおんちゃんは…ここまで来る間のこと覚えてる?」

「ここまでは…。」

「りおんちゃん!?」

 まるで電池が切れたかのように意識がなくなる。


 揺すっても起きてこない。

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