第154話 2000万の特攻をすれば勝てる


 来る。


 きっと来る。


 きっと来る。


 鬼が笑えば来年が来る。……じゃなかった、来年が来たら鬼が笑うんだったっけ。


 来るのは節分の落花生で簡単に撃退できてしまう鬼じゃない。……あっと、北海道の節分では大豆ではなく殻に入ったままの落花生をまくからな。


 ミサイルだ。


 例えばの話、日本に敵対する国が、東京を壊滅させようとして核ミサイルを100発撃ったとする。日本の自衛隊だって無能じゃない。むしろ有能だ。すぐさま迎撃ミサイルを発射して、飛んでくるミサイルを未然に打ち落としてくれるだろう。ただし、100発だ。1発だけ来るのだったら、ほぼ問題なく対処できるだろうけど、100発となるとどうだろうか?


 恐らく99発は撃墜に成功するだろう。100発目も上手く行くだろうか?


 この対応には少しのミスも許されない。もし、何らかのミスで迎撃ミサイルの発射が失敗したり、飛行ルートがズレて核ミサイルに命中しなかったりしたら。


 100発中99発のミサイルが途中で撃墜されたとしても、残りの1発が東京まで到達して核の炎で包めば、それで日本の敵対国としては勝ちだ。


 でもこれって、逆にミサイル目線だと、数撃ちゃ当たる方式だ。確率的に1パーセントしか生き残らないってことだぞ。


 今回30個の国技館が打ち出されるらしい。


 まさか、そのうち一つでも日本に到達すればいい、なんて話じゃないよな?


 自分の搭乗している国技館が撃墜されて、もろとも海に落ちてもずく酢になって消えて魚の餌になる、なんてゴメンだぜ。


「もちろん、撃墜されたら私たちが困るからね。ミサイルに耐えなければならない。でも、迎撃ミサイルっていうのは、敵の飛行機とかミサイルとかを撃墜する用なのよ。飛行機やミサイルを破壊できるだけの威力はあるだろうけど、さすがに国技館のような立派な建物を破壊できるだけのパワーは持っていないはずよ」


 そりゃまあ、飛行機一機を破壊するのと、国技館を破壊するのと、どっちが難しいかといえば、当然国技館だろうな。


 だけど、迎撃ミサイルが一発命中しただけでは平気でも、何発も当たってしまえば、国技館といえどもヤバいんじゃないのか? 飛行機やミサイルよりは的が大きいから、敵からすれば当て易いのは確実だろうし。


「そこで、国技館を守るための結界を張る必要がある。そのための相撲なのよ」


「マジかよ。要は、国技館の土俵で力士が相撲を取って、対魔族の結界を張るってことなんだろう。そんなんで迎撃ミサイルを防げるの?」


「できる。できるという目処があるからこそ、今回の作戦が立案されて採用されたはずよ」


 本当だろうか? 大東亜戦争の時だって、2000万の特攻をすれば勝てる、とか言って、爆弾を抱えた飛行機で体当たり攻撃を敢行したけど、大部分は敵に到達する前に撃墜されてしまったはずだぞ。できるという目処があったから特攻が採用されたんだろうけど、実際にはできなかったというやつだ。


「赤良ったら、心配しないで大丈夫だから。魔族は相撲に弱いってことは分かっているんだから。私たちは助っ人も含めて、土俵の上でずっと相撲を取り続けていれば、それでいいのよ」


 ……なんていうかさ、そもそも論を思いついたんだけど。飛んでくるミサイルを、国技館から迎撃ミサイルを発射して撃墜することって、できないの? あるいは、チャフみたいのを散布してミサイルが国技館に当たらないようにするとか。


 もうほんとなんというか、自分の身を護るための防衛策を、自分が決めるのにかかわることができないのが不安でしかない。自分のオールを他人に任せられますか?


「赤良、ただでさえ不細工な顔なのにその上シケた表情してどうすんのよ。別に私がこの国技館を建設したわけじゃないから、防衛システムがどうなっているかなんて知らないわよ」


 クロハ、その発言、反転性を考えたことある? 男が女に対してその発言をしたらセクハラだと言われて社会的に汚物は消毒だぜひゃっはぁ! されちゃうやつだよ。


 でも発言の後半は妥当だろう。防衛システムがどうなっているかなんて、権限の無い俺やクロハが知りようは無いだろうし、仮に知ったところでどうするかって話だ。相撲の結界で戦えって言われているんだから、俺たちは相撲を取って結界を張るしか無いんだ。


 まあ、その、俺たち、というワードの意味は部員であるクロハと恵水であって、男であって土俵に入れない俺は含有していないんだけどな。ザ・関係者以外立入禁止、というやつだ。


 昔から常々思っているんだけど、関係者以外立入禁止って、「以」という言葉はそれ自体も含むという意味だから、関係者も入っちゃダメって意味になっちゃって誰も入れなくなるよな?


 まあしょうがない。俺は自分が相撲を取れないなら、監督として環境を整えるだけだ。さっさと国技館に行って、掃除でもするか。


「あ、そうだ忘れるところだった。監督に渡したいものがあるんです」


 突然言い出したのは恵水だった。


 なんだろう? ラブレターじゃないよな? 節分の歳の数の落花生でもないだろうし、バレンタインチョコでもないよな?


「はい。これ。お守り代わりとして、二階堂さんから預かっていたんです」


 本土決戦に挑むにあたって、二階堂ウメから俺にお守りってことか? 千人針みたいなもの? あるいは女性が男性に贈るお守り代わりのものって、アソコの毛とか?


 俺の前に歩み寄って来た恵水は、てのひらを上にした俺の左手に、小さなそれを載せた。


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