第152話 私を古都へ連れてって


「俺たちの向かう先は、どこなんだ?」


 重要拠点に向かうというのは本当なのだろうか?


 だとしたら、東京?


 北海道民としては、北海道奪還も大事だ。


 地理的に考えれば沖縄って可能性もあるかもな。米軍基地が沖縄にあるのは、東アジアという地理における沖縄が、戦略的に重要な位置にあるからなのだ。……でもそれって、俺たちの日本本土奪還作戦に関係あるかな?


 タメ、も何も無く、クロハはアッサリと答えを言った。


「京都、よ」


「へ? そこ?」


 歯の折れた櫛よりも間の抜けた声が出たと自覚できる。


 落胆が完全に顔の色となって表面に出ていたはずだ。鏡を見なくても分かる。


 東京じゃないのかよ。


 いや、東京じゃないなら、せめて北海道であってほしかった。


 なんで京都よ。


 そりゃもちろん、東京だけで日本奪還できるというものでもないだろう。関東だけでなく、日本のもう一つの中心である関西も重要だ。


 だけど、それだったら京都じゃなくて大阪じゃないか、普通は。


 47都道府県中の30箇所だから、たぶん大阪に向かう国技館もあるのだろう。ついでに言えば神戸や奈良に向かう国技館もありそうだ。


 でも、東京でもなく大阪でもなく京都に向かうっていうのは、どういうことだよ。


 どう考えても主力から外されて左遷的なもんじゃないか。


 ……でもまあ、京都だから、まだいいか。1000年以上日本の都だった古都だ。重要な地であることは間違いない。


 これが京都ですらなく佐賀あたりだったら目もあてられない。あそこは存在自体が風前の灯火、ゾンビ以外に何も無い場所だ。


「部長、京都に行くの楽しみだね。私、銀閣寺とか見てみたい」


 佐藤恵水が楽しそうにクロハに言う。おいおい、修学旅行に行くんじゃないんだぞ? それに、女子高生が京都の古いお寺なんか見て楽しいのか? その上、銀閣寺を見たいと思うなら、そこは金閣寺じゃないのか?


「私はお寺を見るよりも、八ツ橋を食べるのが楽しみかな?」


 クロハは甘い物が好きなんだったな。でも、恵水だけでなくクロハも盛大に勘違いしているぞ。俺たちは観光旅行に行くんじゃないんだぞ? それに八ツ橋だったら、そんなに食べたいならネット通販で買えばいいだろう……と思ったけど、都市艦にネット通販ってあるのかな? あったとしても京都の都市艦から買うのか。


 まあ、俺としては、京都に行くなら、鴨川に国技館で着地したいところだな。


 鴨川というと、鴨川等間隔の法則というのがあるという噂を聞いたことがある。


 カップルたちが、鴨川の河原を等間隔で歩いてデートするのだという。


 ぼっちの俺にはムカつく現象だ。


 京都に突入するついでに鴨川を破壊してカップルがデートできないようにして悔しがらせてやりたい!


 ……って、俺の考えることも、クロハや恵水と大した違いが無いような……というか、観光名所を見たいとか地域特産グルメを食べたいとかでなく、ネガティブな意識からスタートしているので、俺の方が下等だろうなあ。氷河期世代として人生において総合的にいい思いをせずに生きてきたので、ネガティブ思考が根っこになってしまっているのだ。


「それはそうと、赤良、いよいよ決戦の時が来ちゃったわよ。アンタ、最終決戦までには魔法を使えるようになるよう訓練するって言っていたわよね? 魔法は使えるようになった?」


 そんな積極的に訓練するなんて言った覚えは無いぞ。


 でも、魔法は使いたいと異世界旭川に来た時から思っていたし、魔族との戦いをこれから控えているというからには、自分も最低限は足を引っ張らない程度の戦力になるために魔法を使えるようになりたい、とは思っていた。


 でも、どうやって練習したり修業したりしたらいいのかの目処も立たないままに、決戦の方が待っていてくれなかったわ。


「ハワイアン大王波!」


 俺は技の名前を叫びながら、左右両手の手首を合わせるような格好で両腕を前に突き出した。前に向かって尽きだした両手の掌からは光のエネルギー球が生まれて光線となって……って、なるわけない。


 何も起こりません。


「……全く魔法使えないんだ。しょぼ……」


 あからさまに肩を落としてガッカリした声で、クロハが言った。さっき、行き先が京都と聞いた時の俺も、これくらいは落胆していただろう。


「まあまあ。監督、魔法が使えなくても、相撲ができれば、それはもう魔法以上の戦力ですから。四股踏みや土俵入りをその場でやるだけでも、上は神を祀り下は魔を制する、を体現して魔族の動きを制限することができますから」


 恵水が慰め口調で言った。無能を晒して女子高生に慰められるアラフォー独身氷河期。情けない構図だ。やめてくれ。慰めないでくれ。慰めなんて要らない。惨めになるだけだし。


「赤良は、いまだに魔法を使えないし。ウメは別の国技館で行くしで、戦力的に物足りないのは否めないわよね」


 ……確かにクロハの言う通りなんだよな。まあ俺が魔法を使えないのは最初から計算に入っていないだろうけど、ウメがいないのは、残念だ。元々別の学校だから別行動が当たり前ではあるのだけど。


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