第40話 一生分の運を使い切った男
「そうよ。藤女子高校監修の旭川の玉ねぎさらさらゴールドまるごとスープカレートマトベース、なんだって」
そうか。トマトベースだから色が赤いルーなのか。
そしてタイトルの通り、かなり大きめの玉ねぎがゴロンと一個入っている。
クロハの握り拳くらいの大きさがあるんじゃないだろうか。
他にも、玉ねぎほどではないけど、そこそこ大きめの野菜と肉の具材が入っている。ルーは、スープカレーというだけあって、サラサラの液体だ。スパイシーな香りが、観葉植物で植物クサイ室内に充満する。
「まあ、レトルトカレーであっても、食事ができることには素直に感謝だ。いただきます」
「私も。いただきます」
俺は、いわゆる先割れスプーンを右手に持って、スープ状のルーを、白いライスの上に掛ける。
生粋の旭川市民である俺にとってのソウルフードはラーメンだけど、カレーもまた、日本人の国民食であり、俺にとっても好物である。
スープカレーというのは、特に札幌が本場というべき食べ物で、そういう意味では旭川市民としては対抗意識を燃やさずにはいられないのではあるが、食べ物そのものには罪は無い。スプカであろうとルーカレーであろうと、おいしくいただくことができれば世界は平和だ。
液体ルーを浴びて黄色というよりは赤く染まったライスを、先割れスプーンで一口分をすくう。
口に入れて、事前の心構えが足りなかったことを知った。
「からっ!!!」
スパイシーというには舌に対する刺激が強烈だった。
辛い。
ただ単に感じで書くと、ツライ、と同じ字になってしまうが、この場合は読みが違う。カライ、だ。味覚の形容の方である。
あっつつつつつつ……
ほふほふほふほほほぅふふほほぷほ。
しっかり湯煎してあったのだろう。ルーは熱かった。その上この辛さである。
俺はびっくりして、目を白黒させた。いや赤黄させた。
レトルトカレーで、こんな辛いのって、アリ?
もちろん、コンビニあたりに行くと、激辛とか辛さ10倍とかを謳っているレトルトカレーもある。
でもこれって、藤女子高校監修のご当地産品を使ったカレーでしょ。
そういうのって、普通は中辛くらいのはずだ。さすがに王子様レベルのお子さまには難しいかもしれないけど、大人ならだいたい食べられて、辛い物が好きな人でもぎりぎり満足できる辛さ。それがオーソドックスな中辛のはず。全国チェーンのカレー店でいえば、2辛くらいじゃないかな。
そこへきて、このレトルトカレーの辛さ。マジでビビるわ。全国チェーン店基準でいえば、3辛と4辛の間くらいじゃないかな。
もちろん俺は大人だし、酒も好きな辛党だし、全国チェーンカレーでいえば5辛くらいが一番好きで、食べようと思えば10辛も行けるという辛さに対しては耐性を持っている。赤良という名前が示す通り、唐辛子の赤は大歓迎だ。
だけど、ご当地レトルトカレーでこの辛さがくることは想定していなかったので、驚いてしまった。
「水くれ水」
「はい」
あらかじめ用意してあったのか、クロハは白い紙コップに入った水をテーブルに置いた。俺はゴクゴクゴクと、3口くらい飲む。
口の中がクールダウンされると、頭も冷静になった。
冷静になって紙コップを見てみると、病院でよくみかけるデザインだということに気づいた。名前を書く場所がある。てかこれ、検尿カップじゃないか。どこで手に入れたんだ?
「おい、クロハ。人に水を出す時に検尿カップは、いくらなんでもないんじゃないか?」
「いいでしょ別に。未使用だし」
当たり前だ。使用済みだったら困るわ。しょっぱかったり、あるいは妙に甘かったりしたらどうするんだ。
「いや、未使用であっても、このカップは無いんじゃないの、と言っているんだよ。そりゃ俺は突然押し掛けた客だから、歓迎しろとまでは言わないけどさ」
「文句ばっかりね。そんなに紙コップが不満なら、何か有名な焼き物とかの方が良かったの? 伊万里焼きとか」
「いや、それだったら俺は唐津焼きの方が好きかな。お土産として買ってきて、自分の家で湯飲みとして愛用していたし」
以前に、佐賀県を擬人化したアニメのイベントが佐賀県唐津市で開催された。唐津駅前のローカルなホールで出演声優のユニットのライブが行われたのだ。一生分の運をそこで使い切った俺は、高倍率をくぐり抜けてチケットが当選したのだ。
ライブそのものは土曜日実施だけど、前後の移動と他にもアニメゆかりの地を観光したいということも考慮して、金曜日は会社の有給を取って、二泊三日で旭川から佐賀県へ遠征した。
アニメに出てきたロケーションを目の当たりにすることができて、メインキャストとして出てきた声優が6人も集結して作中で熱唱していた歌を生で聞くことができて、アニメファンとしては大満足の三日間だった。唐津へ行ったんだから、お土産として唐津焼きの湯飲みを買ったのだ。
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