第27話

 風呂から出て部屋に戻るとドアの前でも聞こえる声で負けた〜、と言う声が聞こえた。


 部屋に入ると床に足を崩した姿勢の美夢と大の字で片手にカードを持ったいずみが横たわっていた。


 二人の間には裏返しのカードの束と不規則な向きに置かれた数字と記号。二人はUNOをしていた。この家にUNOはないので二人の持参だろう。


 私が部屋に戻ってきたことに気づいたいずみがこちらを見ながら体を起こした。


「お帰り」


 美夢がカードを全て一つにまとめながらそう言った。いずみも手に持っていたカードを美夢に渡しながら同じことを言う。


「UNOいいな」


 楽しそうにやっている二人を見て少し羨ましくなった。私は一人っ子で家で一緒に遊んでくれる姉や弟はいない。だから二人が羨ましく思った。


「遥華もやろうよ」


 私の思いを汲み取ってか、いずみが私を誘ってくれる。だけど・・・。


「今はいいや。友達に後で電話するって言ったから」


 そう言うとカードを配り終えた美夢が私の方に向いた。


「その友達って明日の祭りに行くの?」


 私はその質問に少し唸った。楓に明日暇?とは聞かれたけどそれがなんのようなのかまでは聞いていない。


 私が唸っていると美夢が言葉を続ける。


「私会ってみたい。ハルちゃんの新しい友達」


 なぜ美夢が私の新しい友達だとそう思ったのか私には分からずすぐに聞き返した。


「なんで新しい友達って思ったの?」


「う〜んと・・・」


 美夢は人差し指を顎のあたりに添えながら少し考え出した。


「まず、私たちが知っている人ならその人の名前を言うと思うし、電話を私たちが変わっても問題はないと思う。それをしなかったから私たちの知らない人かなって、あってる?」


「まぁ、美夢達とは面識はないと思う。中学も違うし」


 美夢の推理みたいな言葉を聞いていたいずみは手札を見ながら落ち込んだ表情を見せている。手札最悪だったんだね。いずみ、ポーカーフェイスだよ。


楓を二人に紹介するのは別に構わない。二人が会って困ることもないし、むしろ私はかけがえのない友達が仲良くなるのは嬉しい。


「わかった、誘ってみる」


「うん」


 美夢はウキウキしたような朗らかな笑顔で頷いた。


「私廊下で話して来る」


 ベットの上に置いたままのスマホを手に取ると再び廊下に向かった。


「わかった、いってら」


 本当に手札がやばいのか、いずみの言葉は棒読みだった。


 部屋のドアを閉めてから階段に腰を下ろす。LINEを開いて楓に電話のかけた。二、三回目のコールの後に出ると思っていた私はワンコールで出た楓に驚きを隠せなかった。


「・・・」


「もしもし遥華?」


「・・・あ、うん、話の続きなんだけど」


「明日もしかして予定あった?」


 楓の声はいたって変化はないはずなのに、私に届いた声はどこか寂しさを含んでいるような気がした。


「まぁ・・・、明日近所のお祭りに行こうって誘われてて」


「それ誰!」


 耳元で大きな声を出された私は反射的に耳からスマホを遠退けた。高校時代の私しか知らない楓からすると楓以外の友達が想像できないのだろう。


「中学の時に引っ越した幼馴染。今家に泊まりに来ているだけど」


「幼馴染・・・、泊まり・・・」


「楓?もしも〜し」


 楓が電話の向こうで何かもそもそと言っているのはわかる。でも何を言っているのかまでは聴き取れない。少しして楓が我に返ったようで話が続く。


「ごめんね。明日の誘いはいいや、友達と仲良くね」


「楓、そのことなんだけど」


 電話を切ろうとしている楓を呼び止める。楓はうん?と声を漏らす。


「その友達が楓に会ってみたいって言ってるんだけど、明日のお祭り来ない?」


「え、いいの!?じゃあ行く」


 楓は即答で答えた。


 そういえば明日何時に家を出るんだろう?二人とは今すぐ決めることはできるけどUNO中だろうし。


「時間は後ほど送るよ、まだ決めてないから」


「あぁ、久しぶりに遥華に会える」


「そうだね」


 私的には少し心配なのだ。キスのことはもういいとして・・・いやよくはない!全然!今も思い出すだけで体が熱くなりそう。でもそれ以前に楓と二人が仲良くなれるかその方が心配だな。


「じゃあ明日」


「うん、明日」


「大好き」


 楓の言葉を最後に電話は終了した。楓からはよく言われる言葉。でも私からはあの日以降言ったことはない。楓からの無償の愛を受け続けているだけ。


 それでいいのだろうか。


 自分の中で変化が起き続けていることに気づくことなく、私はUNOに交わるために部屋に戻った。








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