第25話
商店街に来るのは楓が家に来たとき以来。でもあの時は横を通っただけで中を見ることはしなかった。
商店街を正面から入った。入り口にはようこそ三浦横丁へ、と錆びついたアーチ状の看板が頭の遥上に設けられている。
通路にも多くの人が行き来している。大半はこの暑さをしのぐためにこの道を使う人ばかりだけど、時々店に入って行く人も見かける。
私たちは回りをキョロキョロしながら道を歩く。あの店まだあるんだ、ここはもう閉店してる、二人は三年前の記憶を思い出しながら道を歩く。
「あら、いずみちゃんに美夢ちゃん!?」
歩いているとコロッケの匂いのする方から声が聞こえた。名前を呼ばれて二人が立ち止まる。私も声のした方に向く。
お肉屋のカウンターから目を大きく見開いたおばさんがいた。
「お肉屋のおばちゃんだ!」
いずみが嬉しそうにお肉屋の近くにかけて行った。私と美夢も後に続く。
「おばちゃん元気だった?」
「まだまだピチピチしてるよ、ほら」
いずみがおばちゃんの頬をツンツンしながらほんとだなんて言っている。
「お久しぶりです」
「美夢ちゃんは相変わらず礼儀正しいね。二人はいつ帰って来たの?」
「今日です。今日から二日間ハルちゃん家にお泊まりなんです」
「あらそうなの?三人は本当に仲がいいね」
私は何だかんだでここに来ることがあるので久さは全くない。だから二人とおばちゃんの会話を邪魔しないように後ろで静かに聞いていた。
募る話があるのだろう。話はなかなか終わることはなかった。
「それじゃあ、また」
「三人とも!」
キリがいいところで話をやめ、この場から離れようとした私たちをおばちゃんが引き止めた。
「これ」
おばちゃんは白い紙袋を三つカウンターに置いた。それが何なのか私たちにはすぐにわかった。
「持って行きな」
「ありがとう」
いずみが嬉しそうにそれを受け取る。人の好意を遠慮するのは相手にとても失礼なことは知っているので、私も美夢もそれを受け取る。おばちゃんの後ろ、店の奥ではおじさんが親指を立ててこちらを見ていた。私はそれに気づき軽く頭を下げた。
もらったコロッケを食べながら商店街を出ようとすると美夢が入り口横にある掲示板の前で足を止めた。
「どうしたの?」
私が問うと美夢は懐かしいねと呟いた。先にスタスタと行っていたいずみが私たちがついて来ていないことに気づき戻って来る。
「どったの?」
いずみも私と美夢が見ている紙に目を向けると美夢と同じことを呟いた。
掲示板にはバイトの募集や迷子の犬、近所の行事が書かれた表などがある。
その中で一枚、フルカラーで花火の綺麗な絵が描かれたポスターに私たちの目が止まっていた。
「明日なんだ、
ここ最近家から出なかったからわからなかった。豊海祭りはこの街にある豊海八幡宮で行われるお祭り。海が近いこの街でより良い海の恵みが取れますようにとの願いを込めて行われているらしい。小学校の時にそう聞いた。
「明日行こうよ、久しぶりに」
美夢がクルッとターンしてからそう言った。いずみもいいね、と言いながら美夢の意見に賛同した。
「まぁいっか」
私も明日用事があるわけではない。それに久しぶりに二人と祭りに行けるのが少し楽しみな自分がたしかにそこにいた。
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