夏休み 双子の訪問

第22話

 あれから10日があっという間に過ぎた。長い休み、家に居てもすることがないので課題をやっていた。ずっとやっていたのでそれすら終わってしまった。


 だからベットに大の字になって寝転んでいる。開いたドアからはセミの声と熱風が入って来る。


「・・・暑い」


 エアコンをつければ涼しいだろう。そんなのは当たり前。でもつけない。理由は簡単。


「・・・動きたくない」


 エアコンのリモコンは勉強机の上、距離は三歩から四歩。それすらも面倒だと思ってしまう。


 そんなときベットに置いていたスマホが鳴った。LINEの着信音ではなくデフォルトのままの電話の着信。


 寝そべったまま手探りでスマホを見つけてから画面を見る。電話の相手はとても珍しい人物だった。私はボタンを押してからスマホを耳にかざした。


「もしもーし」


「やっと出た!って画面真っ暗」


 おかしな反応をされて画面を見る。電話はテレビ通話の方で、画面の向こうには懐かしい人物が片手を左右に振っていた。


「ヤッハロー、遥華。一年ぶり」


「本当ね、久しぶり。で、ヤッハローって何?」


 肩まである髪を後ろでちょこんを結んだ電話の相手は天野あまの いずみだった。


「何って、最近読んだラノベのヒロインが言っていた挨拶だけど。よくない?」


 この言葉からわかるように彼女はラノベと呼ばれる小説の中にイラストが挟まれている中高生向けの小説が好きな私の同期。


「そんなのハルちゃんには分からなよ」


 どこからか画面に映るいずみ以外の声が聞こえた。その張本人はすぐに画面を覗き込む様に顔を出した。


「ハルちゃんお久」


 いずみとは対象的に長い髪を私みたいにポニーテールで画面に逆さまで顔を出したのは天野 美夢みゆだった。


 二人は双子でとても仲がいい。中学二年までは幼小中と同じ学校だったのだけど、二人のお父さんが転勤になって家族全員で引っ越してしまった。今は広島にいると聞いている。


「美夢お久、ほんと二人って全く一緒だよね」


 二人ははたから見たら区別が全くつかない。クラスが一緒になった始めは同じ髪型だったから先生すらも見分けがついていなかった。そんな状況を二人も楽しんでいた。


 私が二人の見分け方を身につけたのは二年になってからだった。きっかけはふとしたものだった。


 ズバリ黒子ほくろである。


 私はこの見分け方をほかの人に話したことはない。というよりも口止めされている。二人曰く、みんながわかったら面白くないから、ということ。


 ほとんどわからないのだけど、いずみの左眉毛のところに毛で隠れているけれど、かすかに黒子の黒い丸が見える。


 画面を見たとき私はすぐに右を見た。眉毛に黒子、それを確認してすぐにわかった。


「全くじゃないよ、特に最近はね」


 いずみが首を振りながら否定した。


「それがさ」


「それは後で」


 話そうとしていたいずみを美夢が止めた。


「その話をするのもいいけど、わざわざ電話したんだから」


「あ、そうだった」


 いずみは私に電話をした目的を思い出したらしい。


「明日からそっち戻るんだけど、遥華ん家泊めてくれない?」


「え、急に!」


「ダメかな?」


「それは聞いてみないと何とも・・・」


 私は通話を切らずに怠さを忘れてベットから起き上がり一階に降りた。階段を降りると丁度仕事に行こうとしていたママが玄関で靴を履いていた。


「ママあのさ」


「何?」


 ママは靴を履き終えると私の方に振り向いた。


「急なんだけど、明日いずみと美夢がこっちに帰って来るんだって。それでうちに泊めたいんだけど、いい?」


 ダメって言われそうなことを覚悟した。だって本当に急なことだもん。二人には後で謝ろう。会話は聴こえているだろうけど。


「いいわよ」


「そっか、わかった・・・ん?」


 私は何か聞き間違えをしただろうか、ママなんて言った?


「え、なんて?」


「だからいいよって。天野ママにも頼まれたしね。遥華も会いたいだろうからわかりましたって」


「そ、そうなんだ」


 手に持っていたスマホからはイエーイと言う声とハイタッチをした音が聞こえた。


「二人は知ってたの!?」


 手に持っていたスマホを顔の前に持っていくと笑顔の二人が写っていた。


「知ってた。むしろ知らないのは遥華だけ、遥華ママには黙っててってお願いしてたの。サプラーイズ!」


 ママの方を見るとママもクスクスと笑っていた。


「悪気はないのよ。二人には内緒って言われたから」


「パパも知ってんだよね、このこと?」


「それはもちろん」


「はぁ・・・私の緊張返して」


 ママは笑顔のまま立ち上がると玄関のドアを開けた。


「そう言うことだから。じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 見送るとママの姿は玄関のドアの向こうに消えて行った。


「じゃあ私らも。また明日ね、午後には着くから」


「ハルちゃんじゃあね」


「う、うん」


 そう言って手を振りながら二人との通話は切れた。


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