第39話 お弁当と酸っぱいジャム
しばらくプールで遊んで、お昼はそのままプールサイドで食べた。ホテルとかリゾート地のプールじゃなく、こういうプールで飲食はいいんだろうかと思ったけどいいみたいだ。小さい子供をつれた家族連れなどが屋根があって日陰になっている場所で敷物をしいて何か食べたりしているし、食べ物を売ってる売店もある。
「いっただきま~す。」
まっさきに食べ始めたのはドンドで、おにぎりみたいなのにかぶりつく。海苔ではなくクレープというか生春巻きの皮みたいなのにくるまれているけど、中身はご飯みたいな穀物とおかずなので、やはりおにぎりだ。
タニタも同じくおにぎりみたいなのを持ってきているが、小さな円筒形なのが女の子らしいかな。
「あ、よかったら食べる?」
タニタがこちらにお弁当箱を差し出してきた。見てたのに気がついたのかな。
「ありがとう、ひとつもらうね。」
とかわいらしいおにぎりを手にとる。それをいったん置いてから、自分のパンを半分にしてわたす。
「これお返しにあげる。」
「ありがとう。」
ドーナッツ型のパンは前にライラの犬の散歩につきあったときに食べたのと形は同じだけど、中身は違うようでナッツやチーズなどが練りこまれてる。
そうそうライラも忘れてはいけない。
「ライラも良かったら。」
半分にして残ったパンをさらに半分にしてライラに差し出す。
「ありがとー。」
ライラがパンを手に取る。タニタもそれなら自分のをライラに分けようとでも思ったのかパンを割ってたが、行き先を失ってどうしようという感じで両手に持ってるので、
「あー、ドンドにでもあげたら?」
と言ってみる。
「えっ。ドンドも食べる?」
「おう。くれるものなら何でも食べるよ。」
ドンドはタニタからパンを受け取ると、ひと口で食べてしまった。
僕もとりあえず自分のパンを食べる。ナッツやチーズだけでなく、ハムみたいな肉も刻んで入ってるみたいだった。
タニタからもらったおにぎりをかじると、ひと口で半分くらい食べてしまった。断面から色が付いたご飯が見える。味はお赤飯というか混ぜご飯みたい。赤飯が頭に浮かんだのは、これが何かおめでたいときに食べるものらしいというカンカの記憶からのものだろう。
「私のもどれかあげるー。」
タニタのおにぎりを食べきったのをみはからったように、ライラが自分のお弁当を突き出した。丸く巻いたロールサンドが並んでるなかから、赤いジャムが入ってるのを選ぶ。カンカの記憶によると、ライラの母親がこういうジャムを手作りしてたような。
「たしかこれはライラのお母さんの手作りジャムなんだよね。いただきまーす、ん!」
ジャムは意外なほどにすっぱかった。イチゴジャムじゃなくてルバーブとかビーツのジャムだとこういう味だったりする、のかなあ。
「んー、あいかわらずすっぱい。でも美味しい。」
とごまかしておく。ちなみに前にも書いたけど大球人は食べながら話すことが出来るので、サンドイッチを口に入れながら鼻で話している。
しかし言葉や見たものの記憶にくらべて、味などの感覚の記憶は想起しずらい。食べたことで思い出すというのも今回は弱めで、前に食べたのはもっと美味しかったような記憶が浮かび上がってきてる。
ライラは少しとまどったような顔をしたけど特に何も言わず、昼食は続いた。
タニタとライラの間でも交換が行われたりもしていて、今回のプールの目的である仲良し作戦はまあ成功だろう。
「ごちそうさま。」
最初に食べ終わったのもドンドだった。
「あれ?」
と僕が声をあげたのは、弁当箱にまだ残ってるものがあったからだ。
「ん、これか。良かったら食べてもいいよ。」
ドンドの弁当箱に残っていたのは、プチトマトくらいの緑色の野菜だった。少し細長くていびつな、ミニトマトというよりはミニピーマンみたいな印象。
「あ、いいの。じゃあ。」
特に遠慮せずに手を伸ばす。ヘタみたいな部分を指でつまんでひと口で食べる。少し苦いピーマンみたいな味で、やはりミニピーマンだ。こっちの名前だとピリピの一種なのかな。
「カンカって、ピリピ嫌いじゃなかったっけ。」
少しびっくりした感じでドンドが言う。そう言われると、そうだった。でもカンカが嫌いだという記憶があっても、今の僕が食べられないわけではない。好みや性格が変わったというよりは、人格がそっくり変わっているような状態だからだ。
「あ、今でも好きじゃないけど、食べられないこともないよ。」
と、これまた微妙に言い訳して誤魔化しておく。
ドンドは特に追求などはしてこないで、立ち上がって売店の方を指差してから歩いて行った。まだ何か食べるつもりなのか?
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登場生物まとめ
カンカ:僕の一時転生を受け入れてくれた男の子。鈍感主人公。
ライラ:カンカの隣に住んでる幼馴染。眼鏡っ子。
タニタ:カンカの左隣に座ってる女子。無口。マンガ好き。
ドンド:カンカの右隣の男子。運動が得意で泳ぎも得意。
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