第189話 未亡人の憂鬱
さて、南海で大げんかが起きている時。
西海の刀和達が居たツクシ国のある家では困ったことが起きていた。
「ぜひ、シラツユ殿に我が妻になって頂きたく思います」
髭面で毛むくじゃらのおっさんが一人の女性に土下座して頼んでいる。
それを正座しながら冷たい目で見つめるシラツユと呼ばれた女性。
この女性がどんな女性かと言えば「美人熟女」だろう。
瑠璃色の長く綺麗な髪は見る者をハッとさせるほどの美しさで、顔立ちも綺麗に整っており、その割には温和そうな笑顔が張り付いている。
流石に「若い」とは言い難い年齢ではあるが、逆におばさんとは口が裂けても言えない美人で、年齢を重ねて生まれた落ち着きが彼女の魅力を引き立てている。
そしてその横には同じように綺麗な瑠璃色の髪をした少女が不安そうに女性の背中にしがみついている。
二人は母娘でこの屋敷に住んでおり、小さいながらも領地を持っており、その収入で暮らしていた。
元は彼女の夫の領地だったのだが、夫は急逝してしまい、母一人子一人で切り盛りしていたのだ。
すると、庭からも声が上がる。
『ユウガオ様! 何卒わたくしの愛も受けてくだされ!』
『そんな……こ、困ります!』
『そこを何卒!』
『うう……』
瑠璃色の長い髪をした女晶霊に必死で求婚するおじさん晶霊が居た。
瑠璃色の髪をした晶霊は瑠璃色がメインの体で、お腹から足の辺りが白い。
そして、背中には瑠璃色の綺麗な羽根が生えていた。
鳥形の晶霊の特徴で、鳥型の晶霊は背中の羽根でアウル無しでも空を飛べる。
その様子をちらりと横目で見て、シラツユは悩んでいた。
(参ったわねぇ……)
目の前のおじさんを見てどうしようか悩むシラツユ。
(もうちょっと前なら構わなかったんだけどね……)
そう考えて辺りを見渡すシラツユ。
田舎のお屋敷で、さほど大事なものは無いが、それでも身辺は綺麗にしており、汚れなどはほとんどない。
そして、おじさんの視線が自分の豊かな胸元に行っているのに気づいて困り顔。
(田舎のおじさんが、私のような超絶美人を見てのぼせてしまったって感じか……)
中々良い性格をしているシラツユであるが、心の中で目算する。
(ヨミの話だとそろそろ『アレ』が始まるころだから、今は恋愛を楽しむわけにもいかないのよねぇ)
古くからの友人の事を思い出して打算を張り巡らす。
(身辺整理も終わって、これから何をやるにしても動きやすいようにしていたんだけど……だからと言って結婚している場合じゃないのよねぇ……)
とりあえず断ろうと声を上げる。
「私も齢を35と女の盛りを過ぎております。このような年齢で嫁ぐなど、恥ずかしい限りでございます。どうか止めていただけませんか?」
「年齢など気にしませぬ! わたくしはシラツユ殿と添い遂げたいのです!」
シラツユの断り文句をさらりと切り捨てるおじさん。
ちなみにこの世界では結婚が早いので35歳でもおばさん扱いになる悲しい世界なのだ。
それを考えると、このおじさんの態度は誠意のある対応なんだが……
(めんどくさいわー。このおっさんめんどくさいわー)
笑顔を一切変えずに悩むシラツユ。
ちなみに本当は34歳なのだが、わざと多めに言ったのも断りたいからである。
「わたくしは死んだ夫に操を捧げると誓いました。このような真似は困ります」
「ご安心してくだされ! わたしがその男を忘れさせます!」
(全く安心できねーよ! お前が『だったら良いな』と思ってるだけだろ!)
笑顔を顔に張り付けたまま、心の中で男にツッコミを入れるシラツユ。
大分笑顔が軋み始めているのだが、それでも笑顔のまま断り文句を言った。
「我が子ルリの嫁に出すまではこのまま母娘で暮らしたいのです。どうか聞き入れてはくれませんか?」
「それならばご安心ください! おいゲンを連れてこい!」
シラツユの言葉に髭面のおっさんが一緒に連れてきた部下を呼ぶ。
(何する気?)
シラツユが不審そうに身構えると髭面のおっさんの後ろから気色悪い男が出てきた。
明らかに不潔そうなデブのおっさんで、何というか不審者臭い感じである。
髭面のおっさんは堂々と言い放った。
「このゲン=タユーはこのツクシでは並ぶもの無き豪勇を持つ者。彼がルリ殿の婿となります」
「デュフフフ……よろしくねぇ……ルリちゃぁぁぁん♪」
「ひぃ!」
ゲンと名乗った男のあまりのおぞましさにルリがさらにお母さんの後ろに隠れる。
彼は気色悪い笑顔のまま、ルリを見て喜色満面の笑顔で叫んだ。
「ルリちゃん萌えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
必死で奥の方へ泳いで逃げるルリ。
「待て待てぇ~♪ ロリっ子最高!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
気色悪い男は嬉しそうに泣きながら逃げるルリの後を追いかけた!
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