第187話 やる気スィッチ


 イヨ国の国庁には大勢の晶霊士が集まっている。


 そんな中、イヨ国のある南海太宰 ウス上皇が隣にいるツツカワ親王に声をかけた。


「私がやって良いのか? お前の部下だろう?」

「はい。太宰たいさいがやるよりも神皇陛下がやる方が良いですので」

「私は『元』神皇だぞ?」

「『元』でも太宰よりはいいでしょう?」


 そう言って得意げに微笑むツツカワに苦笑するウス上皇。


「後でダイゴに怒られても知らんぞ?」

「父上が決めた東宮に異議を唱えているので今更です」


 ツツカワ親王は同じ母親の兄であるエーエン親王と共に現東宮……すなわち皇太子に異議を唱えてエーエン親王を次期神皇へと推し進めている。


 そんなことを話しながら、これから渡す予定の保呂を横目で見るウス上皇。


「『山吹色』の保呂か……」

「何でもヨミと同じ黄色が良いと……」

「それは構わんがヨミの着流しも黄色だぞ?」

「色味を少し変えましたので大丈夫でしょう…」


 ちょっとだけ冷や汗を出すツツカワ親王。

 若干、色味に関しては揉めたんだが、その辺は多めに見ようとツツカワは思っていた。


 一方、少し離れたツツカワ親王の直臣の列には瞬とオトが並んでいた。

 瞬の方は晶霊将の正装で浅葱色の水干に亜麻色の袴、若紫の保呂を着ている。

 オトの方はと言えば、瑠璃色の水干に牡丹色の袴を着ている。


 瞬が一番ツツカワ親王に近い場所に居るのだが、これはツツカワ直参の中で晶霊将が瞬だけだからだ。

 本当の席次で言えば最強のモミジがナンバー2になるのだが、モミジは性格が色々とアレなのと、その実績と実力はツツカワを上回るので、同じ直参でも客将の扱いになっている。

 

 本人もそれに異存が無いらしく、割と勝手気ままに行動しているのと、実はヨミ同様に一軍の将としての実力は皆無なのだ。

 これでは、管理職としては失格であるし、何も管理できない。


 そのため、真面目に仕事をしている瞬がナンバー2になるのだ。

 実はその管理能力に関しては若手の中で有望株なのがオトだが、こちらはまだ晶霊将として目覚めていない。


 それだけなら良いのだが、軍師の有望株は他にも居るので、オトはツツカワ親王の軍師の中では末席だが、特別に瞬の横についている。

 これには理由があった。


「ごめん。無理言っちゃって……」

「ただでさえ目つけられてるのに……これじゃ酷いよ……」


 泣きそうな顔のオト。

 隣にはむっとした顔のおじさんが一人居た。

 ツツカワ直参の中で最古であり、ツツカワ親王の元教育係でもある人物で、その名はドーフ=オノと言う。

 ドーフは本来直参の中でも最も立場が高い人物だったのだが……

 瞬はドーフをチラ見しながら小声で謝る。


「ごめん……色々あるのにこんなことばっかりお願いして……」

「良いよもう……あたいはこういう運命なのさ……」


 半泣きになりながら答えるオト。

 こうなった原因は色々ある。


 まずはオトの父親が西海でも顔が効く人物で、ツツカワへ便宜を図りまくったこと。

 そのせいで、元々の直参であるドーフがのけ者になっていたこと。

 ようやくオトの父親が離れてドーフが再びナンバー2になったかと思ったら、瞬が晶霊将になっていたこと。

 そのせいでオトの方が何かと話がしやすくなり、刀和が晶霊将になったことでそれに拍車がかかること。

 そして最後に……


「ちょっと確認したいんだけど、その水干と袴どうしたの? いつものヒョウ柄は?」

「正装持ってこなかったっていったら、ローリエ妃殿下がくれたんだ……」


 不思議そうな瞬に泣きながら答えるオト。

 ウス上皇の后であるローリエにも気に入られているのだ。

 

 まあ早い話が嫉妬である。


「うぉっほん!」

「「・・・・・・・・・」」


 たらりと冷や汗を垂らしながら肩をすくめる娘二人。

 じろりと睨むドーフが小声でぼそりと呟く。


「どうやらまだ自覚が足りんようだな……二人とも終わったら覚えておけ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・(何も言わずに泣く二人)」」


 二人はこれから起きる説教タイムに嘆くしかなかった。


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