第139話 鬼面の男


 鬼面の男はにこやかな声で言った。


「まずは腹を割って話し合い、お互いのことを理解する。これはわかるね」

「はい」


 こくりとうなずく刀和。


「疑問に思ったことを尋ねると良い。そうだな……しいて言えば、『前の相棒との違い』を聞いてみては如何かな? 」

「前の相棒との違い? 」


 眉を顰める刀和だが鬼面の男は話を続ける。


「ヨミは古強者だが、昔から意固地で相棒を持たなかったのだが、こういった相棒を持ちたがらない晶霊は前に相棒を乗せている」

「そう言えば、そんなような話がありましたね」


 モミジが何やら相棒が居たようなことを言っていたのを思い出す刀和。


「だから『前の相棒』について尋ねると良い。きっと色んな思い出があると思う」

「わかりました」

「それから……君自身がアウルを上手く使えないのはヨミの剣技について行けないのも原因の一つだと思う」

「なるほど」


 納得する刀和。

 実際、それは痛感していた事でもある。

 鬼面の男は少しだけ顎に手をやって思案して……ぽんっと手を打った。


「まずはヨミの動きを真似してみては如何かね? 」

「真似……ですか? 」

「そうだ。ヨミの中に居るのなら感覚を共有しているはずだ。実際に自分の体を同じように動かしてみると良いだろう」

 

 鬼面の男はそう言うと一振りの剣を渡した。


「『猫丸』という剣だ……それで練習すると良い」

「……良いんですか? なんか凄そうな剣ですけど? 」


 刀和とて剣の良しあしがわかるわけでは無い。

 まして、この世界では剣は護衛用でしかない。

 だが、当たり前の話だが『名前がある』ということはそれなりに凄い剣ということだけはわかる。

 だが、鬼面の男はくすりとわらった。


「大したこと無いよ。一時、刀を打つのにハマって、自作の剣に適当な名前打っただけだから」


 単なる趣味の領域だった。

 それを聞いた刀和はくすりと笑った。

 それを見て鬼面の男は不貞腐れたように口を尖らせる。


「なんだよぅ……刀匠にも褒められたぐらいだから結構いい剣なんだぞ? 」

「いえ、似たようなことやっていた友達を思い出したので……」


 刀和が思い出したのは黒人ハーフの強面大男の嘉麻の事だった。


(昔、嘉麻は英吾と一緒に作った小銃の模型に『ワン オブ ミリオン』って名前を付けてたな……百万に一つという意味で)


 友人が子供の時に作った夏休みの宿題を思い出す刀和。


(ネットで手に入れた本物のAK47の設計図を基に模型作って怒られてたっけ……)


 最初はよく出来ているなと喜ばれていたのだが、造った経緯がバレてしまい、二人ともしこたま殴られていた。

 ひとしきり笑った刀和は真剣な顔をして剣を受け取った。


「大事に使わせていただきます」

「がんばりなさい」


 そう言うと、鬼面の男はふわりと浮き上がり、上へと泳ぎ始めた。


(どこへ行……えっ? )


 鬼面の男が行った先にはこれまた大きな青い竜の兜をかぶった晶霊が居た。

 紅い体をした晶霊で茶色の着流しを着ており、鬼面の男を恭しく手で受け止めた。


『……キイツ様……もう宜しいですか? 』

「ああ。待たせて悪かったね……バンポー」

『これぐらい大丈夫です』


 穏やかに話し合う二人。


(キイツ=バンポーさんかな? )


 どうやら晶霊士のようで相棒を組んでいるようだ。

 鬼面の男キイツはにこやかに手を振る。


「さらばだトワ! 南海でまた会おう! 」


 そう言って二人は去っていた。

 刀和は二人が去っていった方角へしばらく手を振っていたが……すぐに剣を振り始めた。

 少しでもヨミに追いつこうと、その日は筋肉痛になるまで頑張って振った。



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