第129話 真の最強は?


 ナイシノスは改めて謁見の広間で話すことになった。

 本人は『今すぐにでも合体したい』と言っていたのだが、まずは説明からして欲しいと大毅ホーリが頼み込んで謁見の広間へ来た。


 謁見の広間は西海太宰に陳情する場でもあり、庶民が申し出を行うときはここで行われることになる。

 とはいえ、基本は文官が全て用を確認するのでここまで来るのは稀である。

 まあ、庶民と言ってもそこは10mを越える晶霊も陳情に来る場でもあるので、だだっ広い広間になっている。


 そんな広間には関係者が全員集まった。


 まずは西海の人間を統べる西海太宰 ツツカワ=為平宮ためひらのみや親王


 ツツカワ親王は中央にある晶霊用の座卓上にある玉座に座り、青い水干すいかんに白のひとえを着ており、簡素な謁見用の服を着ている。


 彼の後ろには西海の晶霊を統べる西海大毅 ホーリ=ワダツミがあぐらをかいて座っている。

 彼はその鰐を思わせるような爬虫類顔で目の前のナイシノスを警戒している。


 その脇にはホーリの近侍である二人の晶霊士が立っており、何かあった時にすぐに守れるように目の前のナイシノスに露骨に敵意を見せている。

 

 それ以外の人間と晶霊はナイシノスを挟むようにずらりと二列になっているが、右の列には最近軍師になったばかりのオトとトヨタマのコンビと同じく最近晶霊将になったばかりの瞬とアカシのコンビが居る。


 左の列には刀和とヨミのコンビとラインとトーノのコンビが並び、ナイシノスの後ろにはラインのお付きである4人の晶霊士がずらりと並んでいる。


 それを見て微妙な顔になる刀和はこっそりヨミに尋ねる。


(なんか警戒していない? )

(当たり前だ。あいつは『本当の意味』で最強と言われている戦士の一人だからな)

(……本当の意味? )

(ああ。だって俺の場合は『ハンデ付き』で強いだけだろ? )

(……むぅ……)

 

 それを聞いて口を尖らせる刀和。

 だが、ヨミは苦笑する。


(そうむくれるな。そもそも今まで相棒無しで十分強かったからな。第一、瞬とアカシみたいにあんなに早く晶霊将に上がる方がおかしいんだ)

(そうだけどさぁ……)


 刀和とて別に瞬達が上へあがるのを悪いと思っているわけでは無い。

 とはいえ、自分が原因でヨミの強さを発揮できていないとわかっているので、気持ちのいいモノではない。


(怒るな相棒。お前のお陰で俺は前よりも強くなった。ただ、それ故に『最強』でなくなっただけさ)

(……ヨミは良いの? 最強で無くても? )

(あんな称号に意味はない。俺はお前と共に戦えるだけで満足だ)


 爽やかに笑うヨミ。

 だが、刀和は微妙な顔のままだ。

 そんな刀和にヨミがぼそりと伝える。


(それにまだ注意しろ。あいつの相棒はまだ出てこない)

(どういう意味? )

(あいつの拡張は通常の10倍だぞ? その気になれば、ここの宮殿吹っ飛ばすぐらい出来る)

(そんなに強いの? )

(ああ。本当の意味でヨルノース皇国の最強の戦士の一人だろうな)


 アウル量が増える『拡張型』と呼ばれる能力は条件を満たすと増えて、条件を違えると減る。

 基本、逆の事さえやらなければ無尽蔵に増えるものなのだ。

 だが、刀和は不思議そうに尋ねる。


(でも、逆の事をやらないってのは難しいんじゃない? )


 刀和がそう考えるのももっともで、先日戦ったギョードンの『強奪者』は『物を与える』と減る。

 これは組織を運用する側としては非常に難しく、一切の報酬をあげられないことになり、必然的に対応が難しくなる。

 また、『猫に餌をあげる』といったものまでカウントされるので、何一つやれなくなる。


 このように、拡張型にも色々弱点があるのだ。

 だが、ヨミは少しだけにやけて刀和に尋ねた。


(淫乱の逆はなんだと思う? )

(さあ? )

(オ○ニーだ。男と違ってそれほど必要としないし、あいつは毎日誰かしらと寝ている)

(なるほど)


 納得する刀和。

 要は、色んな意味で必要としていないのだ。


(拡張型は比例曲線のように上下するから、一定以上のアウルはそんなに上がらないのだが、そこをあっさり超えたのがこいつだ)


 比例曲線の場合、一方が大幅に上がっても片方はそれほど上がらない事になる。

 レベルを上げるのに倍々計算の経験値が必要になるゲームと一緒で、一定以上のレベルになると中々上がらないのだ。

 2の二乗は4だが、10の二乗は100.そして100の二乗は一万である。

 逆に言えばそれだけの経験人数が求められるが、好きものと言われてる人でも百を超えるのは辛い。

 どんなものでも度を超えれば苦行になるのだ。


(常日頃からアウル量を増やす努力を絶やさない女だから、相棒が乗ってる時のあいつを倒せるのは、この国に居ないんじゃないか? )

(……それは絶対に努力じゃない気がするけど? )

(物は言いようだ。好きでやってることはある種の努力でもある)


 そう言って笑うヨミだが、ナイシノスから投げキスが飛んできたので、ひらひら手を振って返した。

 見るとアカシが若干むっとした顔になる。


 そのナイシノスはと言えば金色の襟がついた真っ赤な着流しを着ており、その上から黒い保呂を着けている。

 着流しにもマントにも金糸で花の刺繍が施されており、晶霊にしてはおしゃれ過ぎるぐらいだ。


 そんなナイシノスにツツカワ親王が渋い顔で声を上げる。

 

「モミジ殿。姿を現してはくれませんか? 」


 そんなツツカワ親王を面白げに流し目をおくるナイシノスであった。

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