第12話 お食事風景
『リューグの町』の屋敷は一言で言えば『海の宮殿』だろう。
御殿は低い土壁で仕切られており、庭には珊瑚やイソギンチャクが生えて海の庭と言った感じだ。
その海の庭の中に寝殿造りのような御殿があった。
寝殿造りとは建物の全周を庇(ひさし)で覆い、庇(ひさし)の下に板を敷いて廊下にしたものだ。
神社のような造りの建物と思ってもらえれば良い。
廊下と部屋との間は御簾があるだけで仕切りはあっても壁は無い。
そんな開放的な御殿の中で、刀和と瞬はオト姫と共に食事を頂いていた。
「美味しい! 」
新鮮な魚の刺身に舌鼓をうつ瞬。
何しろ、この世界は周りに魚が居る世界なので魚が捕り放題なのだ。
温暖な気候も相まって年中作物が取れるので食料事情は安定している。
また、海藻や、稲、麦なども育てることが出来るので食料が豊富である。
そのため、食が非常に美味しいのだ。
刀和も美味しそうに料理に舌鼓を打つ。
だが、見た目は普通のお刺身定食のようだが、二つだけ普通と違うものがある。
一つはお膳の右にあるみそ汁である。
竹匙が付いていたので匙を入れるとぷにゅりととろみがあった。
みそ汁にトロミが付けてあるのだ。
さらにお膳の横に添えられている変わった形の竹の容器。
竹の容器には小さな穴が開いており、もっと細い竹がストローのように刺さっている。
細い竹に口をつけて容器の底を押すと細いストローのような竹から、中身が出てくるのでそれを飲む刀和。
中は麦湯(麦茶)だったりする。
なんでこんな形になるかと言うと汁物は飲むときに重力を利用する。
器の中に汁が留まるのは重力のおかげで、器に口を付けるにもスプーンですくうのにも重力が必要になる。
早い話が器を上下逆さにしても中々落ちないのだ。
しかも下手に揺らそうものなら水が飛び散ってどえらいことになる。
だからみそ汁にはトロミが付けてあり、麦湯は水鉄砲のような竹に入れて飲み物を飲むのが一般的だ。
竹は上下ではめ込めるようになっており、中に麦湯をいれて飲む方式である。
一見すると『下から垂れるのでは? 』と思うかもしれないが、そこは無重力に近いこの世界ゆえに垂れないのだ。
二人ともお腹がすいていたこともあって、すぐに料理を平らげてしまう。
「「ご馳走様でした」」
ちゃんと手を合わせてお礼を言う二人。
「お粗末様でした」
艶然と妙齢の女性が正座して微笑む。
彼女の名前は『コハクラ チュラ』でオトの乳母をしていた女性だ。
乳母と言ってもまだ30歳前後で綺麗な女性である。
チュラが刀和に微笑む。
「食後の麦湯はいかがですか? 」
「はい、頂きます」
艶然と微笑むチュラにちょっとだけ顔が赤くなる刀和。
すると、瞬が少しだけむっとしたことをオトは見過ごさなかった。
「なあ、お前らって、付き合ってんの? 」
ぶっ!
飲んでいた麦湯を吹いてむせる二人。
「な、何であたしがこんな覗き魔と付き合ってなきゃいけないのよ! 」
「ちょっ! 今、それを言う! 」
「ていうか思い出した! 一発殴らせなさい! 」
「理不尽すぎる! 」
慌てて逃げる刀和とそれを追いかける瞬。
それを見て爆笑するオトとチュラ。
そうは言っても刀和の下手な泳ぎではすぐに追いついてボコボコに殴られる。
「まったく……」
「なんで急に殴られなきゃいけないんだ……」
涙目の刀和と、むすっとする瞬。
それを見て笑いながらオト姫は言った。
「お前ら仲が良いなぁ……」
「……ふん! 」
「うう……」
どうしてそう思ったのか聞きたかった刀和だが、オトはにやにや笑っている。
「つまり、トワが覗きをしていたら、捕まってたらこっちに来たってこと? 」
「実はあたしもよくわからないけど、そんな感じなの。確かあの時はこいつらを正座させてはずなのよねぇ……」
そう言って思い出そうとする瞬。
「なんだったっけ? 変な黒い物が広がった覚えがあるんだけど……」
「何だよそれ……」
不思議そうなオトだが、瞬自身も何故か思い出せない。
そうこうしていると、外から女中の一人が入って来て、ぼそぼそとチュラに言った。
するとチュラはオトの耳に口を寄せ、何やらひそひそと話し始める。
そして、互いにコクンとうなずいた。
(何を話してるのかしら? )
訝しく思う瞬だが、それを聞くよりも先にオトが声を上げた。
「腹ごなしに案内するよ。世界儀を見たかったんだろ? 」
それを言われて、不承不承うなずく二人。
オトはにかっと笑った。
「こっちに来なよ。あたいが教えてやるから」
そう言ってオトは部屋へと案内した。
食事
無重力に近いと一番困るのが汁物。
宇宙食同様に汁が厳禁なのだ。
そのためにもみそ汁はとろみを増やしてゼリー状になっている。
また、お茶のような完全な液体は竹の水鉄砲のような容器の中に入れて飲む。
色々考えた挙句、これが一番風情があると考えてそうしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます