第8話 平安のギャル


 一人の巨人が珊瑚礁が所々にある砂地をゆっくりと歩いている。

 巨人の体は青と白のコントラストを描く肌をしており、青黒くつややかな長い髪をたなびかせて歩いている。

 女性的な丸みを帯びた身体つきをしており、藍染めの着流しを着ており、弓を持っている。

 その背中にはモササウルスのようなワニを二匹担いで歩いているが、重そうには見えず、悠々と歩いていた。


 そして、周りを泳いでいるのは……


 一人は派手派手なヒョウ柄の白拍子のような服を着ている少女だ。

 身に着けた大量の貝のアクセサリも相まって、見た目が平安系ギャルのような感じである。

 ちなみに白拍子と書いたが服の色は黒だったりする。


 白拍子のような服はどうも魚のヒレの代わりになるような物らしく、うまく空気を漕いで泳いでいる。


 腕に着いた振袖は帯紐が付いており、腰の所で結ばれている。

 下の袴も股の間が完全に一体化しているのでまるでスカートのようになっている。

 振袖も袴もダイビングフィン(ダイビング用の足ヒレ)のようなもので効率的に『空気を漕ぐ』ためにそういったデザインになっているようだった。

 

 刀和と瞬の二人が平泳ぎに対して、彼女はバタフライのように体全体をくねらしながら泳いでいるのだが相当早い。


 だが、学ランを着た刀和にセーラー服を着た瞬ではどうしても遅れがちになる。

 瞬は何とかついていけているのだが、刀和は遅れがちで真っ先に脱落していった。


『大丈夫? 良かったら私の体にしがみついて? 』

「すいません……」


 巨人の申し出に素直に従う刀和。

 シリコンゴムのような質感に少しだけ戸惑う刀和だが、何とか着流しの肩に、しがみつく。

 着流しは麻で出来ており、強い匂いに一瞬クラっと来る刀和だが、他に方法が無いのでしがみつく。

 それを見て訝し気な顔になる平安系ギャルの少女。


「しっかし、なんでそんなけったいな恰好してんだ? それじゃ泳ぎにくいだろ? 」


 不思議そうな顔になるコギャルに瞬が代わりに答える。


「それにはちょっと色々あって……私たちは学校で色々やっていた時に何故かいきなり黒い球に飲まれて、気が付いたらここに居たの……」


 そう言って事情を話す瞬。

 だが、少女の顔がどんどんと曇ってくる。


「重力?……学校?……何言ってるかわかんないよ?……」


 瞬の言葉に困り顔になる少女。

 だが、瞬もまた同じように困り顔になる。


「いきなりそんなこと言われても分からないわよねぇ……」


 彼女らにとっては『泳ぐ』のが、当たり前の世界なのだ。

 どうして、こんな格好でいるのかも、わからないのだろう。

 実際問題、瞬もどう話して良いかわからない。


「……そもそも常識の基準がおかしいのよねぇ……」


 そう言って上を見る瞬。

 さきほどは無我夢中で見る暇も無かったのだが、上の方では白く光る『巨大な何か』がずーっと先まで続いていて、まるで天井に埋め込んだ照明のようになっている。

 どうも、ドーナツ状のチューブの中……巨大なタイヤのチューブの中のような構造になっているようで、チューブの内側が白く光っているようだ。


(前にアニメで見たコロニーかな? こんな感じでチューブの中にあったよね? こんだけ無重力ってことは多分回転が止まってる宇宙コロニーか何かの中かな? でもそうなるとこの服は変だし……)


 色々推理してみる瞬だが、全然答えが出ない。

 そして、その白い光の帯が片側は少しずつ細くなって暗くなっているのに対して、もう片方はまるでハサミで切ったかのようにある線を境に青くなっている。

 瞬の見ている方向を見て少女が話す。


「ああ、大丈夫だよ。街につくまでは夜にならないから」

「……ひょっとして、あの白と青の切れ目は昼と夜の境目? 」

「そうだよ」


 夜の基準も違うようである。

 さらに訝し気な顔になる少女。


「……ひょっとして……昼と夜もしらないのか? 」

「……知っているけど……基準が違うから、知っていると言って良いものか……」

 

 訝し気な少女と困り顔の瞬。

 

『なんだか込み入った事情があるみたいねぇ……』


 こちらも困り顔になる女性ウルトラマン。

 そしてあることに気付く。


『ひょっとするとあたしたちが誰なのかもわからないとか? 』


 それを聞いてきょとんとする刀和と瞬。

 その姿を見て愕然とする少女。


「あたしら結構有名なんだけどなぁ……」

「ええと、ゴメン……」


 だが、少女はにかっと笑う。


「まあいいや! あたしはオト! でっ、そっちはトヨタマ! よろしくね! 」

「玉響瞬です」

「万代刀和です」


 ぺこりとかるくお辞儀する二人。

 それを見てにかっと笑う少女。


「シュンとトワか! よろしくな! 」


 そう言ってひらひら手を振る少女。


『トヨタマです。よろしく! 』


 そう言って女巨人トヨタマもひらひらと手を振る。

 その様子をみてさらに困惑する二人だった。





 人物紹介


 オト


 ヒョウ柄に黒い白拍子と平安系ギャルの姿の少女。

 一人称が『あたい』で男っぽい喋り方をする。


 言葉遣いが男っぽいとよく怒られているやんちゃな少女。


 男女の恋愛に興味津々で恋バナが好き。




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