2 雨の日の植物園

 雨の日の植物園


 植物園の中は、突然雨が降り出した外の景色とはまったく違っていて、雨の音も聞こえず、とても静かな世界だった。

 気温も保たれていて、未来の周囲にはたくさんの緑があった。

 植物園にやってきたのは、初めてのことだったけど、案外良い場所なんだな、と未来は思った。

 未来はここで、ただ雨がしのげれば良いと思っていただけなのだけど、せっかくだからと思って、(ただだし)雨の雫を白いタオルで拭ってから、この『ふれあい植物園』の中を見て回ることにした。


 ふれあい植物園の中は、大きなドーム型の温室の構造になっていて、その中に幾つかの大きさの違った、大中小の、丸い植物たちが植えられた九つの異なったコーナーがあり、その植物園の様子を描いた手書きの地図が、入り口の近くの看板に描いてあった。

 未来はその地図を見て、順番に植物園の中の植物たちを観察していった。


 雨の日の植物園の中には(こんなに素敵な場所なのに)人が誰もいなかった。それが少しだけ未来の心を不安にさせていた。

 未来は三つの丸い植物のコーナーを見たあとで、中心にある、一番大きな丸い植物のコーナーのところに移動をした。

 そこには休憩所のような場所があり、そこには自動販売機と、それから休憩用のベンチがあった。

「あ」

 そのベンチのところを見て、未来は思わずそう声を出してしまった。

 なぜならそこに、(誰もいないと思っていたのに)一人の未来と同い年くらいの男の子が、ベンチに座っていたからだった。

 その男の子は声を出したことで未来のことに気がついて、ふっと顔をあげて未来を見た。

 それが未来と涙との、二人の初めての出会いだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る