第37話 デビル化を探すふも

 ――翌朝。

 ユウの店へかわうそパーティと共に訪れる。

 目的はゲオルグの武器と防具だ。

 

「ソウシ殿、感謝致す」

「いやいや。この先を進むには装備が大事ですし」


 先日かわうそと俺は取引をした。

 彼らの目的はゲオルグの装備を整えることだとかわうそから聞いていた俺は、スイに彼の装備を頼んでいたんだ。

 その代わりと言っては何だが、デビルのことと彼らのことについて詳細を教えて欲しいと。

 

 もう一つ彼らに言ってはいないが、正直なところゲオルグの現状装備では二十六階以上先に進むことは厳しい。

 彼は俺がこれまで見た中だと一番レベルが高いけど、ソロだからな。ゲオルグと同レベルのバランスのいいパーティなら、五十階くらいまでは悠々と行けるはず。


 新しい装備を身に着け感涙しているゲオルグへ問いかける。

 

「ゲオルグさん、これでザ・ワンに来た目的は終わりってことで良いですか?」

「目標と目的は勇者様がお決めになられておりますので」

「なるほど」


 うしの上で寝そべっているかわうその首根っこを掴む。

 

『何うそ?』

「ゲオルグさんの装備は整えたぞ。ほら、洗いざらい吐け。その後どうするかは、話が終わってからだ」

『うそ?』


 何の事とまるで話を分かっていないかわうそにため息をつきそうになるけど、予想通りだ。

 こいつから意味のある話を聞けるとは微塵たりとも思っちゃあいない。


「ゲオルグさん、かわうそから自分達の事とモンスターのデビル化についてゲオルグさんから聞けと」

「そうでしたか! このゲオルグ。不肖ながら語らせて頂きます」

「頼みます。その後に次の目標を決めるとかわうそが言ってます」

「了解いたしました」


 これでいい。

 かわうそは何も言ってこないし、大丈夫だ。何も問題はない。

 天才的な俺にかかればこんなもんだぜ! ヒャッハー!

 

 ◆◆◆

 

 ――なんて得意気になっていたこともあったなあ……。

 遠い目をしながら、二十六階の壁に手をつき大きく息を吐く。

 

 ゲオルグは真摯に全てを語ってくれたが、情報量が少なすぎた。

 王都近辺にデビル化したモンスターが出現し、騎士を派遣するものの苦戦。

 その時、颯爽とかわうそとうしが現れ、モンスターを浄化したんだそうだ。

 それ以来、かわうそはデビル化したモンスターを討伐できる存在として騎士たちから尊敬を受ける。

 奴自身、高ランクの神聖魔法を使えるもんだから、悪魔を討滅する勇者と呼ばれるようになったとさ。

 その日以来、かわうそとうしはゲオルグという従者と共に悪魔を浄化することに精を出しているってわけ。

 

 彼の話からでは、かわうそが何者かなのかとか、デビル化の原因は何なのかなんてことは一切分からなかった。

 だが、このまま武器防具を提供して損だけをするわけにはいかない。

 そうなったら、俺の名が廃るってもんだ。

 そんなわけで、かわうそを焚きつけ二十六階へやって来た。ひょっとしたらこの先にもデビル化したモンスターがいるかもしれないからな。

 カルマを稼げるのなら、お釣りがくる。

 

『見つかったか?』


 デビル化モンスターを捜索している鈴木へメッセージを送ると、すぐさま彼から返信がきた。

 

『思った以上に……いる。そこから一番近いのは二十八だな』

『分かった』


 業務連絡だけなら、鈴木と言えども謎のセリフは殆ど見受けられないんだな。

 いいことだ。

 もし目の前にいたら、どんなセリフでもうざったいんだけど……奴の姿は見えないから問題ない。

 

 ゲオルグの雄姿を眺めつつ進んで行くが、どうも風向きが芳しくないなあ。

 ジャイアントリザードの群れと戦っているけど、彼が一匹斬りつけている間にも後ろのジャイアントリザードから炎の息が飛んで来る。

 彼はレベルが高いので、一発喰らったところでどうこうなることはないけど……確実に削られて行っているから。

 

 ジャイアントリザードの群れを倒し切ったゲオルグはポーションを飲み、HPを回復させる。

 お次はポイズントードが二匹と低階層ではあるが階層ボスの目玉ことゲイザーが二体と戦闘に入った。

 

 かわうそとうしはノンビリとゲオルグを眺めるのみ。

 俺も案内人だから、手出しはしない。

 

「おい、かわうそ。ゲオルグさんが毒を喰らったぞ」


 ゲオルグが前衛のポイズントードと切り結んでいる間に後ろのポイズントードから毒を受けてしまった。

 更にゲイザーからレーザーが彼に襲い掛かり、彼の肩口に直撃する。

 

 あ、これは……ダメなパターンだ。

 ゲイザーは様々な状態異常魔法を使いこなすんだ。毒やらでHPが低下したゲオルグは抵抗力が低下して……。

 

「かわうそ。ここまでだ。彼を救い出す」

『うそ?』


 いいとも悪いとも判断がつかない曖昧な返事をするかわうそを放っておき、ポイズントードの目の前で眠ってしまったゲオルグの前に出る。

 アイテムボックスからトゲトゲの付いたブルーメタルハンマーを取り出し、そのまま振りかぶってポイズントードの頭へ叩きこんだ。

 

 メコッと嫌な音を立ててポイズントードの頭がひしゃげた。

 手に残る感触が怖気を誘う。

 

 その隙を見逃すゲイザー達ではなかった。

 右のゲイザーから熱線が、左のゲイザーから麻痺の雲が俺に襲い掛かる。

 めんどくせえな……。

 俺のレベルと抵抗値から推測するに、麻痺を喰らう確率は三割ってとこか。

 嫌らしいことにこのまま行くと先に俺へ当たるのは熱線か。

 

 ならば……。

 アイテムボックスからアンチパラライズポーションを取り出し、蓋を開けて上へ放り投げる。

 すぐさま右腕を頭の前に出し、熱線を受けた。

 続いて麻痺の雲が俺の全身を覆う。

 

 ッチ、三割でも喰らう時は喰らうんだよなあ。

 ピクリとも体が動かなくなったが、上から落ちて来たアンチパラライズポーションの黄緑色の液体を頭からかぶると体が動くようになる。

 

 次は俺の番だ。

 ポイズントードの舌が伸びて来たが、上体を逸らして躱すとハンマーを振り下ろす。

 ドガッと床を叩く音が響き渡る。

 少し狙いが外れたが、当たるには当たったぞ。ポイズントードの左前脚を潰すことができた。

 

『ぼーっとしている癖にソウシもなかなかやるうそ』


 かわうその他人事な声が聞こえてくる。

 ん、待てよ。

 

「おい、かわうそ。意思疎通ができるのって俺だけだよな?」

『あと一人いるうそ。ここにはいないうそ』

「分かった」


 あと一人いるってのは以前聞いた気がする。

 しかし、ゲオルグには伝わらない。

 それでいい。問題ない。

 

 再びゲイザーの黒目がピカピカと光りはじめた。

 

「黙ってろよ、かわうそ。行くぜ! 真の姿を開放せよ『トランス』」


 ちんたらやってられねえ。

 俺の体を白い煙が覆い、人間からシロクマへ体が作り替わる。

 

 熱線が飛んで来るが、軽く腕を振るうだけで明後日の方向に飛んで行った。

 今度は眠りの雲とセットだったが、シロクマは全ての状態異常を無効化する。

 

「くまあああ!(覚悟しろよ)」

 

 前へ踏み出し、勢いそのままに左足でポイズントードを踏みつける。

 メキメキッとポイズントードの体がひしゃげ動かなくなった。

 

 次の攻撃を準備していたゲイザーへ目にもとまらぬ速さで迫り、右のくまーパンチを繰り出す。

 左側のゲイザーが吹き飛び、右側のゲイザーへ激突。

 そのまま二体とも壁に衝突し、ぺちゃんこになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る