第28話 マスコミの取材と報道で、潰れる店が多い

 安西さんのアドバイスは今日も、学びの宝庫だった。私は更に深い相談をしたくなった。


「安西さん、相談の内容を変えていいですか。視察・取材・講演の依頼は以前から多いのですが、ヤッホー・トピックス掲載後は激増しています。

とても全ての依頼を受けることはできません。いや、依頼の9割は断らないと大切な仕事をする時間が無くなります。店のホームページから、私の電話とメールアドレスは落として、店への連絡方法はfacebookとメールフォームだけに変更します。でも、視察・取材・講演の依頼は減らないと思います。断り方も含めて、アドバイスを頂けますか?」

 

 安西さんは「うーん、この質問は想定してこなかったから、飲みながら少し考えさせてくれないか」と言い、私たち2人はしばしビールを飲み、オードブルを頬張る。


「そうだ、役所や官邸の定例記者会見方式はどうかな?」と、安西さんが再び話を切りだす。


「役所や官邸の定例記者会見方式ですか?」


「そう。毎週きまった日時に定例の会見を開催する。視察・取材・講演の依頼者を、まず定例の会見に集まってもらう。会見後、視察・取材の依頼はできる限り、合同で対応する。個別の対応・打ち合わせが必要な取材・講演の依頼者には、合同での対応後に応じる。場所と日時は、子育てカフェの来客が少ない午前中がいいかな。

 会見への参加は、有料にするのが重要なポイント。有料にすると、本気ではない依頼者は来ないから、いちいちメールフォームに来た依頼に断る手間を省くことができる。価格はワンドリンクに資料を付けて、一人1000円から2000円くらい。

 そもそも論として、飲食店へ視察や取材に来て、何も注文しないとか非礼で非常識すぎるよね。もっと言えば、飲食店へ視察や取材に来る日時は、お客さんが少ない日時を配慮して選んで来るのが当たり前」


 安西さんはここまで話した後、ビールを飲みながら、また考え始めた。私は安西さんが、まだ話を続けそうな感じがして、黙って安西さんは見つめていた。10秒後、安西さんは再び語り始める。


「実は俺の実家、飲食店をやっていたんだ。継承者がいなくて、かなり前に閉店したけど。いや、マスコミの取材で潰された、とも言える。

 昔は人気の飲食店でね。よくマスコミが取材に来ていた。マスコミは、絵を求めるから、店が多くの客で賑わう時間に取材したい。マスコミが大きなカメラを抱えて大勢で混雑時に来店するのは、はっきり言って、迷惑だった。

 しかも、何も注文しない非礼な奴が多い。最も迷惑だったのは、取材後に、価格が安い店、と勝手に格付けして報道されたこと。

 うちの店は、価格の安さを売りにしていたのではなく、味の良さと居心地の良さを売りにしていた。それが顧客に評価されて、味の良さと居心地の良さに惹かれる顧客で店は商売繁盛していた。

 にもかかわらず、マスコミが、価格の安さを売りに報道した結果、店の客層が、がらっと変わってしまった。

 価格の安さを求める客ばかりが殺到するようになると、多くの弊害が生じた。まず、味が良く価格は高い看板商品が売れなくなった。

次に、価格の安さを求める客が行列をつくる店に成り下がり、居心地の良さを求める乗連客は店から離れていった。

つまり、利益の源泉となる看板商品と常連客の両方を一気に失った。

飲食店って、こうして簡単に潰れるんだよ。

マスコミの勝手な取材・報道で潰された店側は、路頭に迷い失望している。

でも、マスコミは店を潰した事実に、気がつかない。

マスコミが取材・報道してやったから、店は行列ができるほど客が増えた、感謝しろってバカ丸出しな錯覚をしている。

マスコミは、客の数しか見えない。重要なのは、乗連になってくれるお客さまの質なんだよ」


 安西さんの話は私にとって、本来ならお金を払ったら聞ける、有能な経営コンサルタントによる助言の数々だった。私は安西さんを信頼し、尊敬し、自分が成長し続けるに欠かせないメンターになってほしいと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る