第3話〜誰かの手
披露宴が終わり、二次会への時間。
「ユリ、何ぼーっとしてるの。早く行くよ?」
「それにしても二次会の場所、近いところでよかったね。」
「もしかしたら…、友江先輩が気を遣って近場にしてくれたんじゃない?」
「あ…そうだね。」
「最後の最後まで優しいなんて…さすが友江先輩。」
「ほんとだね。」
先輩達が話している間、移動の用意をする百合。バッグを開く。濡れたハンカチが入っていた。百合はハッとする。このハンカチを貸した男の席を見る。周辺を見る。いない。思わずその男の席へ走った百合。見回しても男はいなかった。ただし、ネームプレートだけは見つけることができた。
「佐藤…?…。」
百合は少しキョロキョロしながら、そのネームプレートを急いで持ち去りバッグに入れた。それだけでも緊張し、息がつらくなる百合。
「行くよーユリー。」
「は、はい!」
百合は二次会会場へ向かった。
向かったのは近くのビルの地下、カフェ&バー。茶色の壁と床。渋い画やオブジェ。古いアメリカ映画に出てきそうな店だった。フード、ドリンク、アルコール、何でも楽しめる場所。
先輩達はアルコールを楽しんでいる間、そこでも百合は探した。ハンカチを貸した男を。
そうしている間に、新郎新婦が階段から降りてきた。皆拍手で迎える。友江はカラードレスを着ていた。黄色とオレンジ色が何層にも重なった、レースのふんわりとしたドレス。左のウエスト部分には、同じ色の大きな花。華やかな友江の笑顔が弾ける。眩しい笑顔の友江も美しかった。
そこでもケーキが運ばれケーキ入刀をし、乾杯をした。たしなむ程度ならアルコールは飲める百合。アルコールの力で、百合はまた落ち着きを取り戻してきた。
「あ!ねぇ今誰もいないよ!行こ!」
先輩につれられ行ったのは、正面、真ん中のテーブル。新郎新婦のテーブルだった。
「友江先輩おめでとうございます!」
「呼んでいただいてありがとうございました!」
先輩達が祝福する。
「ありがとね、来てくれて。嬉しいわー。どう?楽しんでくれたかしら?」
久しぶりの友江の声。その声を聞いただけで落ち着く百合。
「もちろんです!」
「バルーンリリース、私初めてだったんですけど、すごく綺麗でした!私もやろうかなー。」
「予定もないのに言わないでよー。」
「いいじゃない、いつかの予定の日のため!」
先輩2人がおしゃべりしている間も、百合はずっと黙ったまま2人の話を聞いていた。そこに友江が百合に話し掛ける。
「ユリ、あんたも楽しんでる?」
「は、はい!」
「あんたのことだから、ずっと控え目でいたんじゃないの?」
「はい…。」
友江は百合の腕をそっと握った。
「いい?あんたはね、自由なの。何をしてもいいの。何でもできるのよ。好きなことを沢山しなさい。もし怖いことがあったら、誰かの手を借りなさい。誰でもいいわ。どんなに無様でもいい、すがりつきなさい。何かを独りで抱え込んだりなんかしたら絶対だめよ、絶対に。わかったわね?」
「…はい。」
返事をしておきながら百合は思っていた。誰かの手など、自分にはないと。
「友江先輩!写真撮りましょ!」
「いいけど、綺麗に撮ってよね?」
『友江先輩…友江先輩…友江さん…』
先輩2人が去った後、百合は思った。ハンカチを貸した男のことを、聞くなら今、今友江に。百合は思い切って聞いた。
「友江先輩、あの、披露宴に来ていた、私達の隣のテーブルの、佐藤…佐藤…?」
「ああ、
「わたる…。」
「彼がどうしたの?」
「…友江さんによろしくって…。」
「そう…。彼も楽しんでくれたならいいんだけど…。」
友江は一瞬、遠い目をした。
「先輩の知り合いですか?」
「うん、そうね。大切な人ってことに変わりはないわ。」
「大切…。」
「何?あんたまさか惚れた?」
百合は何も言わず顔を真っ赤にした。そんな百合を見て友江は言う。
「彼、いい人よ。すっごくいい人。あんた頑張りなさい!」
そう言われ、百合は友江に背中を強く叩かれた。後ろから他のゲストが来る。百合はその場を離れた。
先輩のおしゃべりを聞きながら、カットされ配られたウェディングケーキとアルコールに少し手をつける百合。その間もずっとあの男を探していた。百合は呟いた。
「いない…。」
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