第20話虹の蟲
【シルバ~ここ何処だろ?】
【ちょっとわからんなぁ…調子に乗って遠くまで来すぎたようだ…】
【上から見たけど…なんにもないよ…遠くにでっかい水場が見えるだけだよ】
シンクが空高く飛びながら声をかける。
【ミヅキが変な虫を追いかけるからなぁ…】
【だ、だって!この虫虹色に光ってたよ!凄い綺麗だったから…お土産にしようかなって…】
【捕まえたはいいが…俺達が迷子になったな…】
【うん…だいぶ遠くまで走ったよね…】
【森ににげられたらさすがに見つけられないからな】
【あーあ…折角捕まえたのにね~】
ミヅキ達は虹色の虫を追いかけてかなり遠くまで来てしまっていた…。
【ミヅキーなんか人が倒れてるよ!】
シンクが空で旋回しながら場所を示す。
ミヅキ達は急いでそこに向かうと…ミヅキより少し大きな子供が倒れていた!
「大変!」
ミヅキが駆け寄って抱き上げると…思いの外軽い体に驚く…上向かせるとほっそりと痩せこけた体が見えた…。
「大丈夫!君!」
ミヅキが水で濡らした布を顔に付けると…
「…うっ…うう…」
「気がついた!」
「…み…ず…ぅ…」
「お水だね!ほら!」
水魔法で子供に水をかけると口を開けてガバガバと飲んでいる。
周りに休めそうな所は無いかと見るが…木陰になりそうな木は一本も生えていなかった…。
「ここに木を生やすのは…可愛そうだね…」
ミヅキは土魔法で屋根を作ると子供を日陰に休ませる…頭に冷たく濡らした布を置いて様子を見ることにした。
「熱中症なのかな?それとも空腹?」
うーんと悩むがとりあえず両方用意する事にした。
「熱中症なら塩分だよね!塩は…あんまり予備が無いかな…どっかに塩あるかな?」
【さっきでっかい水場があったよ!あれってしょっぱい水だよね?】
シンクが見たのは海のようだった…
【海水があれば塩が作れるよ!】
【なら僕がとってきてあげるよ!】
シンクがひとっ飛びで行ってくれると言うのででっかいバケツを作る。
【重くない?これに海水入れるんだよ?もっと重くなるよ?】
【全然大丈夫だよ】
そう言ってシンクが飛び立っていった…。
【じゃあ、シンクが行ってる間に食べるものを作っておこう!あんまり食べてる感じがないから…優しいスープ見たいのがいいかな~】
鍋を火にかけるとオイルを入れて余っていた野菜を細かく切って全部ぶち込む、そこに手作りベーコンを入れると香ばしいいい香りがする。
【その肉はなんだ?】
シルバがブンブンと尻尾を振って覗き込む。
【コレ?これはね前に作って置いたベーコンって言うのオークのお肉の固まりに穴を沢山開けて香辛料を刷り込んで置いたのをチップって言う木の屑に火にかけて鍋の中で燻して作ったんだよ!旨みが凝縮されてて美味しいよ!一口味見してみる?】
シルバが口を大きく開ける。
【そんなに大きく開けても駄目だよ、はい!あーん】
シルバの口に小さく切ったベーコンの欠片を放り込むとコハクにもどうぞとあげる。
【美味い!これは好きだ!もっと欲しいなぁ…】
チラッとミヅキを見ると…
【うっ…もう!しょうがないなぁ…ちょっとだけだよ!】
シルバのちょうだいにミヅキが負ける…、もう一欠片ずつふたりにあげるとちょうど野菜にも火が通ってきた、そこにトマトを入れて炒め水を入れて沸騰させる。
【後は味付けをして…もう少し煮込こんで冷やせば完成かな】
あらかた終わると、シンクが戻ってきた
【シンクありがとう~!お疲れ様!】
シンクにお水をあげて残して置いたベーコンを出してあげる。
【シルバ達はもう食べたからシンクも味見してね】
シンクに小さめに切ってあげるとつんつんと食べている。
【よし!じゃ塩を作ろう、って言っても煮詰めるだけだけど…】
広い底の鍋を用意して海水を入れて強火で沸騰させる、時折焦げないように混ぜながら海水の水を蒸発させていく…
「うっ…う~ん…」
「きゃん!きゃん!」
コハクがミヅキに子供が起きた事を知らせに来てくれた!
「君!大丈夫?痛い所とかない?」
「えっ…君は…?」
子供は大きな獣を連れた自分より小さい女の子に警戒するとパサッと頭の布が落ちる…。
「これ…?」
「君、ここで倒れてたんだよ?」
ミヅキは塩と檸檬と蜂蜜を入れた水を子供に差し出す。
「熱中症になったら大変だからこれを飲んで」
「何これ…?」
「塩と檸檬で作ったレモン水だよ、塩分を取った方がいいから…」
子供は水を凝視するとゴクッと唾を飲む、そっとミヅキからコップを受け取ると…チビっと一口口に含む。
「甘い!」
「蜂蜜も入ってるからね、後から塩の味もするでしょ?」
「うん!でも美味しいよ!」
「よかった!思ったより元気そうで、なら食事も取れるかな?」
「食事!」
「ふふふ、ちょっと待っててね」
ミヅキは鍋に作ったスープをよそって来ると…
「赤い…」
「トマトが入ってるからねミネストローネって言うんだよ」
説明しながらシルバ達の分も用意すると、シルバとコハクとシンクが並んでガツガツと食べだした…ミヅキも自分の用意すると座って食べ出す。
その様子を見ていた子供も一口食べる…
「どうかな?」
ミヅキが子供を見ると…ポロッと涙を流している。
「えっ!どうしたの!?」
ミヅキがオロオロと立ち上がると
「おいしい…こんな美味しいもの久しぶりに食べた…みんなにも…ぐわぜだい…」
泣きながらスープをかきこんでいた…。
子供はスープを食べると落ち着いたようだった。
「ありがとう…助かりました」
子供がミヅキに頭を下げる。
「僕はリジィって言いますこの先の村から来ました」
「私はミヅキだよ!えーと…今は王都?に身を寄せてます」
「王都!ここからどんだけあると思ってんだ!」
「えっ…そんなに遠いの?どうしよう…今日中に帰れるかな?」
「き、今日中に帰る?帰れるわけないだろ!僕の村から一週間以上はかかるんだぞ!」
「あっ!そんくらいなんだ!なら平気だね!」
ミヅキがシルバを見るとシルバが頷く。
「平気なんだ…」
「それで?リジィは何処に行こうとしてたの?」
「僕は隣の町まで…歩いて四日くらいかかるんだけど…途中で水も食料も無くなっちゃって…」
「何しに?」
なんか荷物を持っているようには見えずに聞くと…
「僕の村を助けて貰おうと思って…」
「村を?何かあったの?」
「僕らの村は一番近い町がその向かっていた町で…特に何か特別な物がある訳でも無いから…自分達の食べる分だけ育てて食べていたんだ…それが…1ヶ月前くらいから…急に雨が一滴も降らなくなって…」
「雨?」
「僕の村は雨が一週間に一回は必ず降るんだ…村長は水神様のおかげだって言ってたけど…それが急に降らなくなって…作物は枯れて…貯めていた水も底をつきそうなんだ…」
「それで、なんでリジィが一人で町に行く事になるの?」
「村長達は雨が降らないのは水神様が怒ったせいだって…ずっと祈りを捧げているんだ…だけど一向に雨は降らなくて…そしたら今度は生贄が必要なんだって話になって…」
「リジィが生贄になりそうなの?」
「それなら逃げないよ!僕じゃなくて…姉さんが…選ばれたんだ…村で一番の美人だから…」
「なにそれ!?」
「だから…町に行って食材を分けてもらうか…助けて貰おうと思って…だけど思ったよりも遠くて…」
「それで途中で倒れちゃったんだ…」
「直ぐに帰らないと…生贄の儀式に間に合わなくなっちゃう…」
リジィが思い出したのか…ポロポロと泣き出した…。
【シルバ…】
ミヅキがシルバを見ると…
【うっ…ほっとけって言いたいが…はぁ…無理だよな…さっさと解決して帰るぞ!ベイカーとセバスに怒れたくないだろ!】
【うん!ありがとうシルバ!大好き!】
【全く…】
シルバは困った顔をしながらも尻尾を機嫌良さそうに振っていた。
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