15-5 冷えた手に杖
カウンターの向こう、ウィリアムの姿を見て取ったライナルトは、一瞬、安堵したような顔をした。だが、弟分の表情に気がつくや、眉根にしわを寄せる。
ウィリアムの方も、ライナルトの額に浮かぶ額と、裾の裂かれたマントを見て、すぐに異様な気配を感じ取った。
いやに早い帰りだ。ジェラールを探しに行ったはずの彼の背後に、当の探し人の姿はなかった。
「長兄様は……? 一緒じゃないんですか?」
「状況が変わった。ジェロアを探している場合ではないかもしれない。杞憂であればいいんだが……そうだ、ワルターはどうした? まさか、こんなときにまで仕事を放って――」
ワルターの名を耳にしたウィリアムの視線が、不自然に足もとに向く。ライナルトは口を噤み、カウンターの方に歩み寄った。
ワルターの遺体を目にするなり、彼の表情が険しいものになる。
「何があった」
「わかりません。僕と
ライナルトはカウンターの裏に回り、遺体のかたわらに片膝をつく。
ワルターの腿には、緊急時のためにと、短い片手剣が装備されていた。
その鞘は空になっており、剣そのものは、カウンターの下に滑り込んでいた。刃が、うっすらと血で曇っている。
剣を用いての戦いは、ワルターの得意とするところだった。それでも彼が押されたところを見ると、敵は複数いたと考えるべきだろう。
近接戦闘の場において、敵がクロスボウから剣に持ち替えることも、敵が矢をつがえるまでワルターがただ待っていることも考えにくい以上、体に刺さった矢の数と切創がその証拠と言っていい。
状況を軽く確かめたライナルトは、懐から魔術杖を取り出した。規則違反の罰として取り上げていた、ワルターの魔術杖だった。
その持ち手を魔法陣を描きかけていた緩い拳に差し込み、冷え固まった拳ごと、自身の分厚い両手のひらで握りしめる。
「よく戦ったな。
もっと早く杖を返してやるべきだったのではないか。どうしてこのときに限って――ライナルトは、杖を握れないまま死んでいった兄弟に対する後悔を振り払い、ウィリアムの方に目を向けた。
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