6-10 懸念

 カキドと合流し、養護部管轄区画の明るい廊下へと踏み出したジェラールは、まぶしさに目を細めた。



 魔眼を持つリャンは、視力を失っても困らなかったかもしれない。

 だが、魔眼による〈視界〉で、光を感じながら――自分がここにいることを確かめながら歩く安心感まで、得られるものだろうか……。


「うわ。ジェロアってば、ひどい顔色。これだから、あの人と関わるのは良くないって言ってるのに……」


 闇に満ちたリャンの領域を出てすぐに、カキドが声を上げる。


 リャンを恐れ、ジェラールを心配するあまり、ジェラールの周りで起きた不幸は全てリャンのせいであるように思えてくるのかもしれない。

 ジェラールは、カキドを哀れに思いながらも、苦笑いで応じる。 


「リャンのことが苦手だからって、そう悪く言うなよ。昔のことを思い出して気分が悪くなっただけだ。リャンは関係ない」


「それ、本気で言ってる? 部屋の外にいた僕でさえ、ちょっと酔ったくらいなんだから、やられた本人が気づいてないわけが……」


 〈酔った〉とは――〈やられた〉とは、どういうことか。

 身に覚えがないジェラールがなおもきょとんとしていると、カキドが間の抜けた顔をする。


「もしかして、本当に気づいてないの? 鈍いっていうか、なんていうか……」


 呆れたようにため息をつかれても、ジェラールには、カキドが何の話をしているのだかわからなかった。

 カキドは、「ごほん」とわざとらしく喉を整えてから、諭すように言う。


「いい? ジェロアは、リャン様あのひとに精神干渉を受けてたんだよ。どういじられたかはわからないけど……。あの人は、あなたを思い通りにしようとしてるんだと思う。あなたが馬鹿みたいに優しくて、自分のことを大切に思ってるのを知ってて」


 カキドの言葉に、ジェラールはしばしぼう然としてから……思わず、失笑してしまった。



 リャンが自分に危害を加えるはずがないと、ジェラールは確信を持って言える。

 狂気に片足を浸してしまっているとはいえ、彼の愛情は本物であると、身をもって知っているからだ。



 それに、リャンが彼女が言うような手を使わずとも、ジェラールは、リャンの望むようにありたいと思っている。

 それが〈リャンの思い通り〉ということなら、あながち間違いでもない。カキドは気に入らないだろうが。

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