5-5 眠り病

 七年前の事件によるリャンの変化は、それだけではない。あれ以来、リャンは、よく眠るようになっていた。

 単に眠りが長いというだけではない。別の事をしている最中にも、唐突に眠りに落ちてしまうのだ。


 原因不明、リャン自身にも制御できないらしいこの症状は、支部員の間で、『眠り病』と呼ばれている。



 『眠り病』のために長時間意識を保っていられないリャンは、自然と現場仕事から遠ざかり、部屋にこもりがちになっていた。


 現在のリャンは、人を癒すことをやめ、木偶を扱う魔術師――〈人形使い〉として、支部を見守るだけに徹している。

 彼が優れた治癒、精神干渉魔術の使い手であったことを知らない者も増えていた。


 

 それでも、調子がいいときのリャンは、こうして保育室に現れ、子供たちの相手をしていることがある。


 部屋にいるときには虚ろな顔ばかりしているリャンだが、子供たちの前では表情を和らげる。

 ジェラールは、そんな彼の姿を見るのが好きだった。


 キースに寄り添い、彼とともに支部のために働いていた頃のリャンは、もっと穏やかで、生命力にあふれていた。

 子供たちと触れあっているときには、わずかに、当時の彼の面影が覗くのだった。


「話がある。あんたにしか聞けないことだ」


 子供たちの前で言えることは限られている。ジェラールが短く要件を口にすると、リャンが、じっとジェラールを


 ジェラールが多くを口にしなくとも、人より第六感の優れた彼であれば、言葉以上のものを読み取れるはずだ。

 ジェラールの考えていた通り、リャンは目で頷いてから、子供らに微笑みかける。


「――今日のお話はここまで。大事なお仕事があるからね。ジェラール、わたくしの部屋においで」


「えっ! 続きは?」「リャン様、あんまり来られないのに!」――子供たちは、口々に不満をつぶやく。しかし、無理に引き止めて、リャンやジェラールを困らせる者はいなかった。

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